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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#596: Exactly Like You

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東京は大雪である。
もっとも生まれも育ちも雪国だった蚤助にとってはさほどのことはないが、自宅周りの雪片付けが面倒といえば面倒。
こんなことを言っていると、故郷の人々からお叱りを受けそうだ。

自分の初恋がいつどんな風だったか、覚えているだろうか。
人によっては、同級生や先輩だったり、近所のお兄さんやお姉さんだったり、あるいは学校の先生だったり、ひょっとして友達のパパやママの場合だってあったかもしれない。

蚤助の場合、あまりにも昔のことでもう忘却の彼方になってしまったが、こんなシーンだけは覚えている。
小学校の低学年のころ、放課後、たまたま教室に一緒に残っていた同級生の女の子から「お腹が空いてたらコレ食べて」と板チョコを一かけらもらったのだ。
当時チョコレートなどというものを口にしたことのなかった蚤助は「教室でこんな高級なお菓子を食べてもいいんだべが?」と思ったのか、思わなかったのか(いったいどっちじゃい)…いずれにしてもドキッとしたのだが、とにかく、あれがいわゆる「初恋の味」というものだったかも知れない(笑)。

女流作詞家の先駆者ドロシー・フィールズ(1905-74)は、庶民の生活感情を歌にするのがうまい人だった。
ドロシーの父リュー・フィールズはコメディアンで、二人の兄、ハーバートとジョセフは脚本家という芸能一家で育った。
高校の先生をしながら、雑誌に自作の詩を投稿しているうちに、作曲家のジミー・マクヒューと知り合い、コンビを組んで作詞家として活躍するようになった。
その後も、ジェローム・カーン、アーサー・シュワルツ、シグムンド・ロンバーグらの著名作曲家と組んで作詞を手掛けたが、最も彼女の個性を発揮したのがやはりマクヒューとのコンビであった。

マクヒューとのコンビで発表した代表作『捧ぐるは愛のみ』(I Can't Give You Anything But Love)が典型的だが、“Exactly Like You”という歌は、1930年の『レスリーのインターナショナル・レヴュー』というショウの挿入歌として書かれたもので、彼女らしさがよく出たラヴ・ソングである。

I know why I've waited
Know why I've been blue
I pray each night for someone
Exactly like you…

私が憂鬱な気分で待ってた
毎晩お祈りまでして待っていたのは
まさにあなたみたいな人

あなたみたいにラヴ・シーンがうまい人と
どうして二人でお金を払ってまでして
お芝居を見に行かなきゃならないの

とても素敵な気分
私の世界をあなたに渡したい
分かってほしい ささやかでバカみたいな私の夢

ママがいつも言っていたのは このことなのね いま分かった
夢は必ず叶うって それはあなたのことなのね…
これは実に初々しい恋心ではないか(笑)。
ずっと心の中に描いていた理想の恋人、初めてそういう相手にめぐり合えたという胸のときめきを歌っている。
夢見たことや夢に見たこともなかった様々な事柄がどっと心に押し寄せてくるのだ。
しかもそれは絵空事などではなく現実の「恋」なのである。
「あなたみたいにラヴ・シーンがうまい人と、どうして二人で…」というフレーズなど、どうです、都会的なセンスの良さと庶民感覚に近いユーモアが感じられませんか。

“Exactly Like You”は『あなたに似た人』とか『君にそっくり』とかいう邦題がつけられているが、『(まさに)あなたのような人』というのが一番内容に近いと思うのだが…。


(Carmen McRae/After Glow)
アイク・アイザックスのベース、スペックス・ライトのドラムスを率いて、自らピアノの弾き語りで歌いきる57年のカーメン・マクレエが実にいいですな(こちら)。

最近では、今や人気女性ヴォーカリスト兼ピアニスト、ダイアナ・クラールがレパートリーとしている。
2008年リオ・デ・ジャネイロでのライヴ・ステージから(こちら)。
あなたにこんなに思いを寄せています、と個性的に聴かせてくれる。


(Oscar Peterson With Herb Ellis/Hello Herbie)
そのダイアナ・クラールを発掘、抜擢して世に出した、巨匠オスカー・ピーターソンが、彼のトリオ(サム・ジョーンズのベース、ボビー・ダーハムのドラムス)とともに、旧友のギタリスト、ハーブ・エリスと再会セッションをしたものが素晴らしい(こちら)。
69年、当時の西ドイツでのスタジオ録音だが、その録音のクォリティの高さから今日に至るまで蚤助の愛聴盤になっている。

愛と恋大安売りの流行り歌(蚤助)
それにしてもよく降るなあ(笑)。


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