さて、14日はバレンタイン・デイである。
本命のチョコレートにメッセージを添えるのを忘れてはならじ。
『砂に書いたラブレター』(Love Letters In The Sand)が出たところで、今回はズバリ『ラブレター』(Love Letters)である。
ジョセフ・コットンとジェニファー・ジョーンズが主演した45年の同名映画(ウィリアム・ディターレ監督)の主題歌として作られた。
この映画も未見だが、戦争中、手紙の代筆をきっかけにして起こる恋愛を絡めたサスペンス劇だそうだ。
ラブレターは決して人に頼んではいけないという教訓を、ここから学ばなければならないようで…(笑)。
以前こちらで触れたことがあるが、『ラブレター』の作曲者ヴィクター・ヤングは『80日間世界一周』(Around The World In 80 Days‐1956)でようやくオスカーを獲ったものの、すでに世を去っていたという気の毒な人である。
彼の書くメロディはあまりにも甘美過ぎたのだろう、この曲もノミネートはされたが、アカデミー賞は獲れなかった。
映画には、メロディのみが使われたそうだが、その後エドワード・ヘイマンの詞がつけられ、ディック・ヘイムズの歌でヒットしたものの、映画公開当時はさほど大きな話題にならなかったようだ。
こんなヴァースがついている。
The sky may be starless, The night may be moonless
But deep in my heart there's a glow
For deep in my heart I know that you love me, you love me
Because you told me so…
空に星はなく 月がない夜でも
私の心の奥深くには 輝きがある
あなたの愛を 心の底から感じているから
あなたが愛していると言ってくれたから…
コーラスの方はこんな具合に続く。
Love letters straight from your heart keep us so near while apart
I'm not alone in the night when I can have all the love you write…
あなたの心からのラブレター 離れていても側にいるみたい
暗い夜も寂しくはない あなたの書いた愛の言葉があれば
一言ももらさず心に刻んで あなたの名前に口づけをして
もう一度読み返す あなたから届いたラブレター…
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この歌、“Love Letters”と複数形である。
一通だけではなく手紙の束になっているわけだ。
それを一行、一字一句残らず憶え、毎回、名前に口づけをする…何だか「それは忙しいだろう」とツッコミたくもなるが、情熱的であることは窺うことができる。
こんな経験を持つ人は幸せであろう、Eメールによるコミュニケーションが一般的になっている現在、やはり愛する人から届いた肉筆の手紙に、時代を超えて愛と温もりを感じてしまう。
62年に、黒人歌手のケティ・レスターがジャジーに歌ってミリオン・セラーを記録した(こちら)。
このケティ・レスター嬢のヴァージョンが1986年、20年以上の時を越えて再び脚光を浴びることとなるのだ。
デヴィッド・リンチ監督の『ブルー・ベルベット』(Blue Velvet)は、ボビー・ヴィントンのヒット曲をダシに使った狂気のサスペンス・スリラーだが、この映画にケティ・レスターの歌声が流れる。
しかも、悪役を怪演したデニス・ホッパーが、ヒロインのイザベラ・ロッセリーニを脅迫するセリフというのが“Love letters straight from your heart”というもので、『ラブレター』の歌詞そのままであり話題になった。
さらに、66年にはエルヴィス・プレスリーがリリースし、ミリオン・ヒットさせている(こちら)。
当時、エルヴィスは映画出演を活動の中心に置いていた時期だが、撮影の合間をぬってナッシュヴィルで録音したもので、バックのピアノは当時カントリー系のスタジオ・ピアニストであったフロイド・クレイマーが弾いているようだ。
ただ、一説には、クレイマーは録音に遅刻したので、ピンチヒッターでデヴィッド・ブリッグスが弾いている、ともいわれる。
いずれにしても、このピアノの伴奏は結構味わい深くてなかなか良い。
切々と哀感がこもったエルヴィスのこの歌は彼のバラードの名作のひとつではないかと思う。
このほか、実に多くのアーティストが歌い継いでいる名曲だが、個人的にはナット・キング・コールやジュリー・ロンドンあたりのもっと甘美なものが好みである。
特に、ジュリーは4拍子ではなくワルツタイムである点が面白く、彼女のハスキーな声も夫君ボビー・トゥループのオーケストラの軽いタッチの伴奏とよく調和している。
ジャズではソニー・ロリンズが2年余の雲隠れから復帰、ギターのジム・ホールらと録音したアルバム“The Standard Sonny Rollinss”(1964)で短いながら濃密な演奏を残している。
しかし、ピアノのケニー・ドリューがヨーロッパに渡り、コペンハーゲンで録音した傑作“Dark Beauty”(1974)における演奏が心に残る(こちら)。
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(Kenny Drew/Dark Beauty)
ベースのニールス・ぺデルセン、ドラムスのアル・ヒースとのトリオ演奏で、アル・ヒースのドラムスが相変わらず少し騒々しいのが残念だが、ぺデルセンのプレイが素晴らしい。
こちらは「怪演」ではなく「快演」である。
返信用切手を入れたラブレター(蚤助)
本命のチョコレートにメッセージを添えるのを忘れてはならじ。
『砂に書いたラブレター』(Love Letters In The Sand)が出たところで、今回はズバリ『ラブレター』(Love Letters)である。
ジョセフ・コットンとジェニファー・ジョーンズが主演した45年の同名映画(ウィリアム・ディターレ監督)の主題歌として作られた。
この映画も未見だが、戦争中、手紙の代筆をきっかけにして起こる恋愛を絡めたサスペンス劇だそうだ。
ラブレターは決して人に頼んではいけないという教訓を、ここから学ばなければならないようで…(笑)。
以前こちらで触れたことがあるが、『ラブレター』の作曲者ヴィクター・ヤングは『80日間世界一周』(Around The World In 80 Days‐1956)でようやくオスカーを獲ったものの、すでに世を去っていたという気の毒な人である。
彼の書くメロディはあまりにも甘美過ぎたのだろう、この曲もノミネートはされたが、アカデミー賞は獲れなかった。
映画には、メロディのみが使われたそうだが、その後エドワード・ヘイマンの詞がつけられ、ディック・ヘイムズの歌でヒットしたものの、映画公開当時はさほど大きな話題にならなかったようだ。
こんなヴァースがついている。
The sky may be starless, The night may be moonless
But deep in my heart there's a glow
For deep in my heart I know that you love me, you love me
Because you told me so…
空に星はなく 月がない夜でも
私の心の奥深くには 輝きがある
あなたの愛を 心の底から感じているから
あなたが愛していると言ってくれたから…
コーラスの方はこんな具合に続く。
Love letters straight from your heart keep us so near while apart
I'm not alone in the night when I can have all the love you write…
あなたの心からのラブレター 離れていても側にいるみたい
暗い夜も寂しくはない あなたの書いた愛の言葉があれば
一言ももらさず心に刻んで あなたの名前に口づけをして
もう一度読み返す あなたから届いたラブレター…

この歌、“Love Letters”と複数形である。
一通だけではなく手紙の束になっているわけだ。
それを一行、一字一句残らず憶え、毎回、名前に口づけをする…何だか「それは忙しいだろう」とツッコミたくもなるが、情熱的であることは窺うことができる。
こんな経験を持つ人は幸せであろう、Eメールによるコミュニケーションが一般的になっている現在、やはり愛する人から届いた肉筆の手紙に、時代を超えて愛と温もりを感じてしまう。
62年に、黒人歌手のケティ・レスターがジャジーに歌ってミリオン・セラーを記録した(こちら)。
このケティ・レスター嬢のヴァージョンが1986年、20年以上の時を越えて再び脚光を浴びることとなるのだ。
デヴィッド・リンチ監督の『ブルー・ベルベット』(Blue Velvet)は、ボビー・ヴィントンのヒット曲をダシに使った狂気のサスペンス・スリラーだが、この映画にケティ・レスターの歌声が流れる。
しかも、悪役を怪演したデニス・ホッパーが、ヒロインのイザベラ・ロッセリーニを脅迫するセリフというのが“Love letters straight from your heart”というもので、『ラブレター』の歌詞そのままであり話題になった。
さらに、66年にはエルヴィス・プレスリーがリリースし、ミリオン・ヒットさせている(こちら)。
当時、エルヴィスは映画出演を活動の中心に置いていた時期だが、撮影の合間をぬってナッシュヴィルで録音したもので、バックのピアノは当時カントリー系のスタジオ・ピアニストであったフロイド・クレイマーが弾いているようだ。
ただ、一説には、クレイマーは録音に遅刻したので、ピンチヒッターでデヴィッド・ブリッグスが弾いている、ともいわれる。
いずれにしても、このピアノの伴奏は結構味わい深くてなかなか良い。
切々と哀感がこもったエルヴィスのこの歌は彼のバラードの名作のひとつではないかと思う。
このほか、実に多くのアーティストが歌い継いでいる名曲だが、個人的にはナット・キング・コールやジュリー・ロンドンあたりのもっと甘美なものが好みである。
特に、ジュリーは4拍子ではなくワルツタイムである点が面白く、彼女のハスキーな声も夫君ボビー・トゥループのオーケストラの軽いタッチの伴奏とよく調和している。
ジャズではソニー・ロリンズが2年余の雲隠れから復帰、ギターのジム・ホールらと録音したアルバム“The Standard Sonny Rollinss”(1964)で短いながら濃密な演奏を残している。
しかし、ピアノのケニー・ドリューがヨーロッパに渡り、コペンハーゲンで録音した傑作“Dark Beauty”(1974)における演奏が心に残る(こちら)。

(Kenny Drew/Dark Beauty)
ベースのニールス・ぺデルセン、ドラムスのアル・ヒースとのトリオ演奏で、アル・ヒースのドラムスが相変わらず少し騒々しいのが残念だが、ぺデルセンのプレイが素晴らしい。
こちらは「怪演」ではなく「快演」である。
返信用切手を入れたラブレター(蚤助)