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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#622: 「メガネ」の川柳

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健康診断で「白内障の疑いあり」と指摘されてから、数年経ち、明るい光の下では物が見えにくい、目のかすみや視力の低下などの症状が次第に顕著となって、さすがに日常生活にも支障が出るようになったので、ようやく手術することを決意した。だが、目の手術というとさすがに腰が引けるのはしようがない。

学生時代に黒板の字が見えず、初めてメガネをかけてから、これまでサングラスも含めておそらく15個近くのメガネのお世話になってきた。冒頭の画像は、現在手元に残っているメガネである。度数の合わないレンズの方は御用済みだが、現役としで使用できるメガネフレームだけでも8個もある。運転免許証の写真にも年齢に応じたそれぞれのメガネ姿で写っている。裸眼視力は0.1以下で、メガネをはずすと周りがぼんやりとするだけでほとんど盲目であった。

5月24日の土曜日に右目、翌25日の日曜日に左目に手術ということに相成った。


白内障は目の中の水晶体が濁ることにより視力が低下するのだ。原因は、加齢、糖尿病等全身疾患の合併症、風疹などによる先天性のもの、目のけが、その他薬剤や強い紫外線によるもの等だそうだ。水晶体の濁り方もひとりひとり違うため症状も様々らしい。水晶体の周辺部(皮質)から濁りが始まることが多く、その濁りが中心部(核)に広がると「まぶしい」「目がかすむ」ようになる。中心部(核)から濁り始めると「一時的に近くが見えやすくなる」ことがあり、その後「目がかすむ」ようになるという。診断の結果、蚤助の場合は、両目とも周辺部(皮質)の濁りだという。あまり良いイメージ画像がないのだが、蚤助の症状に一番近いのはこんな感じであろうか。




蚤助の場合は上の1.のケースに近かった。とにかく眩しいので、午後になってオフィスの窓から陽光が差し込むとあたりが白っぽくなり、パソコンのモニター画面が見づらくなるので、ブラインドをすっかり下して仕事をしているような状況であった。

手術の半月ほど前(5月12日)に手術が問題なく行えるかを調べ、目に合う眼内レンズを選択するため、さまざまな検査が行われた。視力、眼圧、屈折検査、網膜の状態を調べる眼底検査、水晶体の濁りの状態を調べる細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査、角膜の内皮細胞が減っていないか調べる角膜内皮細胞検査、眼内レンズの度数を決める眼軸長検査、問診、血圧測定等である。検査といっても、ほとんど機械化されていて、検査技師の指示通り、片目ずつスコープを覗いて緑や赤の光を見つめるだけで検査が終わる。それぞれほんの数十秒くらいのものである。

眼内レンズはピントが一か所に固定されているので、自分のライフスタイルに合った度数を選ぶことが重要だ。もっとも、現在では、遠近両用の眼内レンズもあるようだが、これは今のところ健康保険の適用外だそうである(笑)。蚤助は、大多数の人が選択するという両目裸眼で1.0程度の眼内レンズを希望した。新聞や読書など手元の小さな文字は見えにくくなる。すなわち老眼は治らないのだ(笑)。だが。これは視力が安定してから、老眼鏡等で補正すればいいわけだ。

一般に、手術は、その後の管理も含めて3〜4日ほどの入院が必要とされるが、最近では、重篤な合併症等がないなど患者の全身状態や手術後の検査通院に問題がなければ、日帰り手術を実施している医療機関が多い。蚤助も日帰りである。白内障の手術は具体的にどうやるのかというとこんな具合だ。


つまり、濁った水晶体を超音波で砕いて取り出し(超音波水晶体乳化吸引術)、人工レンズ(眼内レンズ)を入れるという方法である。眼内レンズは直径6ミリほどの大きさで、後嚢に固定するためにループ(輪っか)がついている。一度挿入すれば交換する必要はないそうだ。もともと、イギリスの医師が、戦闘機の風防が目に刺さったパイロットに異物反応が起こらなかったことに気付いたことから、眼の中にレンズを入れるというアイデアが生まれ、眼内レンズの開発につながったという。素材はさまざまで、アクリル樹脂、シリコン樹脂、PMMA(ポリメチルメタクリレート)などが使われているらしい。

いよいよ手術である。数日前から目を清潔に保つために目薬をさし始める。使い残した目薬は病院に回収されてしまった。病院で廃棄処分にするという。まずは右目。15時30分に病院へ行くと、同じ時間帯に8人の同病患者が順番に手術を受けるという。蚤助は5番目、蚤助の前は同年代と思しき女性のSさん、ご主人が付き添いに来ていた。「ノーメイクという指示なので勇気が要った」とはSさんの弁(笑)。15分おきに3回、瞳孔を開かせる薬を点眼される。その間約45分、待合室でじっと待つ。血圧測定は平常よりもかなり高めだった。やはり少し緊張しているのかもしれない。

そして控室に案内され、着替えをするのだが、着替えといってもSTAP小保方女史で見直された割烹着のような着衣で、Tシャツの上から身に着ける。薬剤等で衣服が汚れるのを防ぐ意図があるらしい。ここで時計や指輪、人によっては入れ歯もはずすように指示され、頭にキャップをはめられて順番を待つ。名前を呼ばれると、手術室の手前の鏡のある部屋に入り、ナースが名前と手術を受ける部位を確認する。手術室には理容室や歯医者にあるような可動式の椅子がある。執刀医は、蚤助を診察した女医のS先生ではなく、比較的若い男性医師である。心電図の端末と血圧計を装着されると、椅子が倒れ、仰向けにされる。顔にシートのようなものがかけられ、右目だけ表に出して、ガムテープのようなもので瞼や目の周辺を固定、強制的に瞼が閉じられない状態にされる。

瞳孔が拡大していることを確認すると、麻酔薬を点眼、「始めます」と医師の声。青いライトがまぶしい、と思う間もなく消毒液やら何やらやたらと目に流される。水中から青空を見上げているようだ。白目と黒目の境目を3ミリ程度切開して、そこから処置をするという。痛みは全く感じないが、引っ張られたり圧迫されたりする感じはあって、無意識に体が強張ってしまう。その間、青いライトが上へ行ったり下に行ったりし、「できるだけ目を動かさないように」と先生が言うのだが、そんなこと言われてもなあ…(笑)。要所要所で左腕に装着した血圧計が腕を締めつけたり緩んだりして作動しているのがわかる。医師が「吸引済みました」と言うと、青色が消え、自分の角膜の組織らしきものが白い光を介して透けて見える。水晶体はなくても網膜があるからかしらん、などとぼんやり考えていると、「レンズを装着します」との声。また圧迫されたり引っ張られたりしているうちに、突然、また青色が見え出し、次第にはっきりと光源がわかるようになってくる。そこで「終わりました」。右目に大きな眼帯をさせられて、装着していた心電図やら血圧計がはずされてお終いである。控室から出て、戻るまでの所要時間がおよそ20分、実際の手術の時間は15分程度だったということだろう。熱いお茶が出て、一件落着である。

術後は片目で帰宅しなければならないので、付き添い人が必要と言われていたのだが、考えてみればよく見えない片目で帰らなければならないのだった(笑)。だが、幸いにも自宅まで遠くないし、住宅地で週末の交通量も少ないので、何とか帰宅できた。ご主人の付き添いがあったSさんは正解だったわけだ。

翌日は左目である。病院へ行くと、当たり前だが昨日の手術仲間の顔がある。ナースに右目の眼帯を外してもらうときが感動的であった。まず、目に入ったのがナースの白衣、その白さが強烈な印象であった。今まで見ていたのは何だったろう、と思わず感想を云うと周囲から笑い声。他の人も同じだという。見える世界の明るさが違うのだ。おそらく子供時代の蚤助はこんな鮮やかで美しい世界を見ていたのであろう。そうしているうちにまた左目の手術である。基本は右目と同じ、昨日ほどではないにせよやはり血圧がやや高めであった。待合室にはBGMとしてバロック音楽が流れているのだが、手術室には音量は低いが、モダンジャズが流れているのに気がついた。わざわざジャズ好きの蚤助のためというわけではなかろうが…。蝉坊氏の応援メールに「手術中はジャズの名曲のことでも考えながら…」などとあったことを思い出し、自然に笑みが浮かぶ。昨日よりも落ち着いていたことは確かである。しかも、今度は視力の上がった右目で帰るので安心である。抗生物質、胃薬、1日4回点眼するという目薬を3種類手渡された。目薬はしばらく続ける必要があるという。

今日現在、左目は問題ないが、右目にゴロゴロとした異物感がある。S先生によると傷口を縫合した絹糸が原因だそうだ。糸は時間の経過とともに自然にとれるそうだが、充血もまだ治まっていない。右目の視力は0.8〜0.9、左目の方は1.0〜1.2程度と視力に若干の差がある。視力は1か月程度で安定するそうだが、手元が非常に見えにくいのがことのほか辛い。いずれ老眼鏡等で補正する必要があるだろう。洗髪、洗顔、飲酒はしばらく控えるよう指示されたが、目に水が入らぬよう細心の注意をしながら、洗髪・洗顔の方は自己診断ですでに解禁、珍しくも飲酒だけはいまだ封印している(笑)。なお、後学のために記しておくと、蚤助の両目の白内障の手術費用(手術前後の検査料等込み)は、健康保険適用(本人3割負担)で約10万円程度であった。片目5万円である(笑)。

ということで、これまでずいぶんお世話になってきた「メガネ」の川柳である。

平成22年11月 NHK文芸選評  安藤波瑠・選 

いませんよ父のメガネに適う婿   松本守雄
ふたりしてメガネ違いを笑い合う   鈴木登史生
おメガネに適ったらしいしごかれる   吉岡 修
人を見る眼鏡を磨く向かい風   河内郷輔
耳打ちをされる眼鏡が曇りだす   天野弘士
よく見える眼鏡はずしてから平和   問可圧子
世渡りへ眼鏡かけたり外したり   岡部英夫
意見ない男はメガネ拭くばかり   多良間典夫
就活に迷う眼鏡かコンタクト   山根吉城
別人になって繰り出す伊達メガネ   黒崎和夫
メガネ取ったら貧相がぬっと出た   後藤洋子
イヤな奴イヤなメガネをはめている   伊藤弘子
ガリレオと一緒にのぞく遠メガネ   丸畑徳世
好奇心ここで芽を出す虫めがね   斉藤由紀
そこかしこ家中メガネ守備に就く   木山 清
度が合わぬらしい私を褒めている   栗林むつみ
欲しいのは老後の見える遠メガネ   加賀山一興
メガネして戸惑うキスのタイミング   菅井京子
嫁いだ子見守る母の遠眼鏡   村上和子
メガネでは冬のすき焼きもどかしい   伊藤 強

  

鼻ぺちゃの悲哀眼鏡が知っている   岡田貴志子
姑の老眼鏡が見えすぎる   高橋咲恵
サングラスちょっと勇気が湧いて来た   福西初子
ゼロの数メガネを上げて確かめる   阪口洋之助
眼鏡かけ顔を洗ったのは内緒   山地勝彦
度の合わぬ眼鏡と生きている呑気   村上ミツ子
自己評価メガネはいつもくもりがち   北川隆子
眼鏡代えても世の中は変化せず   橋爪徳成
よく見えるメガネに替えてくたびれる   伊藤石英
老眼にフレームだけはニューモード   酒向邦一
照れている父はメガネをかけ直す   伏見久江
皺の手が取りっこしてる虫眼鏡   門西勝子
眼鏡にもワイパーが要るラーメン屋   堀 敏雄
睨んでも孫には効かぬ鼻メガネ   妹尾安子
エンディングテーマへメガネ曇り出す   竹中正幸
猜疑心強くメガネの度が進む   椎野 茂
なぜメガネ昔勉強今ゲーム   塩沢達成
少しだけ翔んでみたくてサングラス   桐生静子
うろちょろの心を隠すサングラス   福土繁蔵
拙句は佳作20句に抜いていただいた。

お若いと言われたメガネいつもかけ  


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