今夏は全国各地で猛暑、大雨、土砂災害が頻発したが、ここにきて御嶽山の噴火で多数の犠牲者が出たというニュースである。
被害に遭われた方々はまことにお気の毒というほかなく、心からお見舞い申し上げたい。
日本は本当に災害の多い国で、いつどこでも誰もが災害に見舞われる可能性があるということを再認識させられた。
だからというわけではないが、久方ぶりの記事は自然現象からの連想で、空模様について。といっても、別に天気予報について語るわけではない。
“Stormy Weather”(悪天候、荒れ模様)というアメリカの楽曲のハナシである。
1930年の末に、デューク・エリントンがニューヨークのコットン・クラブから去った後、キャブ・キャロウェイが出演するようになり人気を集めた。
キャロウェイといえば、蚤助の世代だと、65年の映画『シンシナティ・キッド』(ノーマン・ジュイソン監督)に出演したとか、80年にジョン・ベルーシ、ダン・エイクロイドのハチャメチャ映画『ブルース・ブラザース』(ジョン・ランディス監督)に出演し、自身の大ヒット曲“Minnie The Moocher”などを披露して、人気が再燃したあのハイ・デ・ホーおじさんである。

(キャブ・キャロウェイ)
コットン・クラブの頃の彼の人気は最高だったが、出演3年も経つようになると、人気凋落傾向となってきたため、テコ入れ用にと書かれたのが“Stormy Weather”であった。
とはいえ、作曲したハロルド・アーレン自身がレオ・ライズマン楽団の演奏でレコードに吹き込み、すでにヒットさせていた。
それを33年初演の「コットン・クラブ・オン・パレード」というミュージカルに使い回したのだが...、結局、歌の内容がキャロウェイ向きではないということになり、代わりに歌ったエセル・ウォーターズが大好評、彼女はスターの地位を不動のものとした。ハイ・デ・ホーおじさんはガックリというわけだ(笑)。

(エセル・ウォーターズ)
しかし、この歌を有名にしたのはレナ・ホーンで、41年に初めて録音しヒットさせ、43年には初主演した同名映画でも歌って、不朽のナンバーとしたのだった。

(レナ・ホーン)
テッド・ケーラーの書いた歌詞は少々長いが、アーレンの曲調同様、なかなかブルージーである。
STORMY WEATHER(1933)
(Words by Ted Koehler, Music by Harold Arlen)
Don't know why, there's no sun up in the sky
Stormy weather
Since my man and I ain't together
Keeps rainin' all the time
なぜ空に太陽が姿を見せないのだろう
荒れ模様の天気
彼と別れてからずっと雨が降り続く
Life is bare, gloom and misery everywhere
Stormy weather
Just can't get my poor self together
I'm weary all the time, the time, so weary all the time
人生はむき出しの裸 どこも陰鬱で悲惨
大荒れの天気
ただ哀れな自分自身を受け入れることができない
ずっと疲れ果てているばかり
“get oneself together”という言い回しは「自制する」という意味だ。ここでは“get my poor self together”となっているので、「哀れな自分自身を抑える」、少なくとも表向きは何でもないように振る舞うということで、それすらもできない荒れた感情が外に表れてくる状態を言っているのだと思う。
When he went away, the blues walked in and met me
If he stays away, old rocking chair will get me
All I do is pray the Lord above will let me
Walk in the sun once more
彼が去ってしまうと 憂鬱(ブルース)がやってきた
彼がいないならば 古いロッキングチェアが要ることになるだろう
天にまします主に祈るばかり
もう一度太陽の下を歩ませてください、と
この一行目はなかなか英語的な表現で、「彼が去るとブルースが歩み寄ってきて、私に出逢った」というのだからどうも訳しづらい(笑)。
ロッキングチェア云々のところは、正直いって蚤助にはよくわからないが、推測するに、憂鬱になるとロッキングチェアに座り物思いにふけるという情景を表現したものだろうか。
Can't go on, all I have in life is gone
Stormy weather...
もうだめ 私の人生のすべてが消えてしまった
荒れ模様の空...
I walk around, heavy-hearted and sad
Night comes around, I'm still feelin' bad
Rain pourin' down, blindin' every hope I had
This pitterin', patterin', beatin' and spatterin' drives me mad
Love, love, love
This misery is just too much for me...
重い心と悲しみを抱えて 歩き回る
夜になっても 気分はひどいまま
どしゃ降りの雨が 私の希望を覆い隠す
このサーザーという雨音が 私を苛立たせる
愛、愛、愛
この惨めさは辛すぎる...
“pitter-patter(pit-a-pat)”、“beatin'”、“spatter”は、いずれもパタパタ、バタバタ、ドキドキ、パラパラというオノマトペ的な動詞で、ここでは雨が降る音の描写であるが、アメリカとは違って、日本ではどしゃ降りの雨はやはりザーザーと降るのだ。
続いて、“love, love, love”と繰り返しが出てくるのは、おそらく雨音がそう聞こえるということなのだろう。
恋人にフラれて、とことん落ち込んで、身動きもならない。でも、その気持ちをぶつける相手がない。だから気持ちが荒れ模様になっていく。ああ、もう、神様もみんなバカーッ!ってところだろうか。荒れ模様の天気に託して人生の無常感を歌った名曲である。
それではアイス・ビューティ(氷の美女)こと、レナ・ホーンの極め付きの歌。
日本では過小評価されているが、欧米ではショー・ビジネスを代表する大歌手。多数の人から尊敬される偉大なアーティストのひとりであった。43年の彼女が初主演したオール黒人キャストによるミュージカル映画『ストーミー・ウェザー』(アンドリュー・L・ストーン監督)の1シーンから。彼女の十八番で、生涯の持ち歌であった。
天も地も憎い生命を呑んだ土砂 蚤助