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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#725: 愛しのロレインちゃん

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 本物の歌手が歌えば、歌詞の情景が目に浮かんでくると言われるが、そんなことはめったにあることではない。でも、ナット・キング・コールの歌を聴くとそんな言葉が実感できる。1930年代のこと、人気ジャズ・ピアニストだったコールが、酔客にしつこく絡まれて歌ったのが「Sweet Lorraine」であった。

 作詞ミッチェル・パリッシュ、作曲クリフ・バーウェルによる28年の作品で、映画とかミュージカルとは関係なく、ラジオ電波に乗って広まった曲である。作曲したバーウェルは、当時の人気歌手ルディ・ヴァレーが結成して間もないダンス・バンド「コネティカット・ヤンキーズ」のピアニストであった。リーダーのヴァレーはバンドを指揮しながら口にメガホンを当ててちょっと鼻にかかった甘い声でソフトに歌うクルーナーで、ビング・クロスビーがスターになるまでは、天下の人気を集めた大スターであり、もちろん、ヴァレーが歌って注目された曲であった。

 ナット・キング・コールが歌うと、リバイバル・ヒットし、以降、コールの重要なレパートリーとして知られるようになる。元々ヴァースのない「AA'BA'」32小節形式のバラードとして書かれた曲だが、コールの歌唱以来、ミディアムでスウィングすることが一般的になった。


 コールはこの曲を何度も録音している。このトリオによる43年ヴァージョンのコールのピアノ・ソロは過剰な修飾もなく表現したいことがきちんと伝わってくる。オスカー・ムーアの渋いギターもなかなか味わい深い。

SWEET LORRAINE (1928)
(Words by Mitchell Parish / Music by Cliff Burwell)

Now I just found joy, I'm as happy as a baby boy
With another brand new choo-choo toy
When I met my sweet Lorraine

A pair of eyes that are brighter than the summer skies
When you see them, you'll realize
Why I love my sweet Lorraine

Now when it's rainin', I don't miss the sun
Because it's in my baby's smile
And to think that I'm the lucky one
That will lead her down the aisle

Each night I pray that no one will steal her heart away
I can't wait until that lucky day
When I marry sweet Lorraine

ねえ、うれしいことがあったんだ
新しい汽車ポッポのおもちゃをもうひとつもらった坊やのようにハッピーさ
ロレインちゃんに会ったんだ

彼女の目 夏空よりも輝いている
会えば分かるさ
なぜ僕がロレインちゃんに恋してしまったかってことが

雨が降ったってお日様が恋しくないんだ
あの娘の笑顔の中にあるからさ
そして僕があの娘と結婚するラッキーな男だと考えるからさ

毎晩祈るんだ 彼女の心が誰にも奪われないようにって
僕はロレインちゃんと結婚する幸福な日まで待ちきれないんだ
 大好きなロレインちゃんへの無邪気なラブ・ソングだが、サビの部分で「雨が降っても、お日様なんか恋しくない、だってあの娘の笑顔が太陽なんだから」と歌うところが泣かせる(笑)。そのサビの最後の lead her down the aisle という部分だが、プログレッシブ英和中辞典には down the aisle は「結婚式をあげて」とあり、walk (go) down the aisle は「結婚式をあげる」というイディオムを掲載されている。教会など結婚式場の祭壇に至る中央通路が aisle なので、そんな意味になる。この歌詞では、「ロレインちゃんの腕をとって結婚式の祭壇に導く」ということだろう。

 ナット・コールを心から敬愛したオスカー・ピーターソンがナットのレパートリーを取り上げたのが「With Respect To Nat」と題された65年録音の好企画盤。ピーターソンの渋い歌声はナットの直系だが、ピアノの方はピーターソンらしいテクニックを披露する。


 ところで、雑誌「メトロノーム」の読者による人気投票で選出されたミュージシャンは、メトロノーム・オールスターズとして、39年から56年にかけて何度かスタジオ録音を行っている。46年のオールスターズのメンバーは、チャーリー・シェイヴァース(tp)、ローレンス・ブラウン(tb)、ジョニー・ホッジス(as)、コールマン・ホーキンス(ts)、ハリー・カーネイ(bs)、ナット・キング・コール(p)、ボブ・エイハーン(g)、エディ・サフランスキー(b)、バディ・リッチ(ds)、フランク・シナトラ&ジューン・クリスティ(vo)という面々であった。この年の12月、女性歌手のクリスティが抜けたメンバーで「Sweet Lorraine」を録音しているのだ。シナトラはこのとき31歳とまだ若く、後年に比べるとまだまだ青臭い印象だがそこがかえって良かったりする。この歌をシナトラが歌って、上述のように既にヒット曲として持ち歌になっていたナット・コールがピアノを弾いている図というのが想像するだに楽しい。コールは演奏しながら「俺のレパートリーなのに、シナトラが歌って、俺は伴奏ってか、なぜだ?」と思っていたかも知れない(笑)。


 「ロレイン」は女性の名前なので、通常は女性歌手が歌うことはない。蚤助の知る範囲では、カーメン・マクレエがナット・キング・コールのヒット曲や持ち歌ばかりを歌った83年録音の「You're Lookin' At Me」というアルバムに入れたものだけだが、夭逝したビヴァリー・ケニーはタイトルと歌詞を「Ball And Chain」と変えて録音(55年)している。やるせない投げやりなムードの中に、少しお茶目な表情が見え隠れする、なかなか味のある歌いっぷりである。


恋しても失恋しても太る質(タチ)

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