世の中、ふつう「落ちる」のは、人、物体、飛行機、人気、評価、売上、生産、品質、腕前、重要なポイント、試験、結果、オーディションなどである。
この他、「正道」が落ちたり、「市民的幸福」(?)が落ちたりする場合があるだろう。
いずれにしても「落ちる」のにあまり良いことはなさそうである。
だが、例外的ではあるが、「落ちる」のが良い場合だってある。
「汚れ」や「つきもの」が落ちるのはもちろん良いことだし、「恋」に落ちる(FALL IN LOVE)ことも悪いはずがない(笑)。
♪
“LET'S FALL IN LOVE”というスタンダード・ナンバーは<恋をしましょう>という邦題がついている。
マリリン・モンローとイヴ・モンタンが共演した映画にも同名の『恋をしましょう』(1960)というのがあった。
ジョージ・キューカーが監督したロマンティック・コメディだが、こちらの方の原題は“LET'S MAKE LOVE”で、この曲とは全く無関係である。
“FALL IN LOVE”が「惚れる」というどちらかといえばプラトニックな語感なのに対して、“MAKE LOVE”の方は「愛を交わす」というニュアンスで、恋の行方がだいぶ進展した状態というところだろうか。
<恋をしましょう>と言えば、昭和37年(1962)、大きな扇子を手にした袴姿の畠山みどりが声を張り上げて「♪恋をしましょう、恋をして、浮いた、浮いたで、暮しましょう〜」(“恋は神代の昔から”星野哲郎作詞、市川昭介作曲)と歌っていたのをつい連想してしまうのが、我ながら滑稽で何だか情けない。
“LET'S FALL IN LOVE”という曲は、“OVER THE RAINBOW”(虹の彼方に)や“IT'S ONLY A PAPER MOON”(ペイパー・ムーン)と同じくハロルド・アーレンの手になるものだ。
この曲は、1934年同名の映画の主題曲として書き下ろしたもので、映画音楽としては彼の初仕事であった。
ものの本によれば、この映画のためにアーレンは4曲書いたそうだが、そのうち2曲は没にされたという。
ブロードウェイで上演される新作ミュージカルの場合でも、リハーサルをしながら脚本や演出、振付などの変更が行われるのがふつうで、それに伴って、曲が追加されたり削除されたりする。
だが、その場合には作詞者と作曲者は現場に立ち会って、自らの意見を述べたり、相談したりしながら、最終版を作っていくものである。
ところが、ハリウッドでは、作詞・作曲家は曲を提供したら仕事はそれでお終いなのである。
したがって、映画が完成してみたら、自分の曲が知らぬうちに削られていたということがしばしばあった。
ジョージ・ガーシュウィンが「ハリウッドの仕事は曲を作って渡すだけなので、ブロードウェイと違って面白くない」と語ったそうだが、アーレンもこれを「カリフォルニア・メソッド」と命名し、「まったく理解できない」と不満を述べていたという。
♪ ♪
さて、この曲の作詞はテッド・ケーラーで、「さあ、恋をしよう、恋をしてはいけないという理由はない」などとウキウキムードの歌詞を書いている。
♪ 恋をしましょう
恋をしてはいけないという理由はないでしょう
心というものは恋から作られる
恋をするチャンスを逃す手はないでしょう
なぜ恋することを恐れるの
目を閉じて 私たちの楽園を作りましょう
それがどんなものかわからなくても やってみることはできる
なんとかうまくやってみましょう
さあ、恋をしましょう
恋をしてはいけないと理由はないでしょう
私たちが若い今こそ 恋をするとき
さあ、恋をしましょう…
アーレンの曲はノリのいいリズムに特徴があり、多くの映画に取り上げられ人気を高めてきた。
この曲が世に出てからも映画『愛情物語』(THE EDDY DUCHIN STORY‐1956)をはじめ多くの映画に使われてきたが、心地よいスイング感とメロディを少し崩すフェイク向きのフレーズが散りばめられているため、ヴォーカルだけではなく器楽演奏としても多くの録音が残されている。
![]()
エラ・フィッツジェラルドやアニタ・オデイ、ナット・キング・コール、ルイ・アームストロングなどの歌を聴くと何だかムズムズと本当に恋をしたくなってくる(笑)。
こんなところにも「春」を感じるのは、私もまだまだ若いということか(笑)。
最近のお気に入りは、ダイアナ・クラールのヴォーカルである(WHEN I LOOK IN YOUR EYES‐1999)。
インストでは、オスカー・ピーターソンの黄金トリオからレイ・ブラウン(b)とエド・シグペン(ds)が抜け、新たにサム・ジョーンズ(b)とルイス・ヘイズ(ds)へとメンバーが入れ替わったばかりのオスカー・ピーターソン・トリオが、軽快なテンポでグイグイ飛ばす演奏が聴きものである(BLUES ETUDE‐1965)。
![]()
中でも、デューク・エリントンとエリントン楽団の至宝ジョニー・ホッジス(as)の共演盤“SIDE BY SIDE”(1959)では、ハリー・“スィーツ”・エディスン(tp)、ベン・ウェブスター(ts)が加わり、寛いだスウィング・セッションを繰り広げている。
ここでの演奏は、リスナーが幸福感に包まれるような心温まるものである。
恋してもお茶から先に進まない (蚤助)
この他、「正道」が落ちたり、「市民的幸福」(?)が落ちたりする場合があるだろう。
いずれにしても「落ちる」のにあまり良いことはなさそうである。
だが、例外的ではあるが、「落ちる」のが良い場合だってある。
「汚れ」や「つきもの」が落ちるのはもちろん良いことだし、「恋」に落ちる(FALL IN LOVE)ことも悪いはずがない(笑)。
♪
“LET'S FALL IN LOVE”というスタンダード・ナンバーは<恋をしましょう>という邦題がついている。
マリリン・モンローとイヴ・モンタンが共演した映画にも同名の『恋をしましょう』(1960)というのがあった。
ジョージ・キューカーが監督したロマンティック・コメディだが、こちらの方の原題は“LET'S MAKE LOVE”で、この曲とは全く無関係である。
“FALL IN LOVE”が「惚れる」というどちらかといえばプラトニックな語感なのに対して、“MAKE LOVE”の方は「愛を交わす」というニュアンスで、恋の行方がだいぶ進展した状態というところだろうか。
<恋をしましょう>と言えば、昭和37年(1962)、大きな扇子を手にした袴姿の畠山みどりが声を張り上げて「♪恋をしましょう、恋をして、浮いた、浮いたで、暮しましょう〜」(“恋は神代の昔から”星野哲郎作詞、市川昭介作曲)と歌っていたのをつい連想してしまうのが、我ながら滑稽で何だか情けない。
“LET'S FALL IN LOVE”という曲は、“OVER THE RAINBOW”(虹の彼方に)や“IT'S ONLY A PAPER MOON”(ペイパー・ムーン)と同じくハロルド・アーレンの手になるものだ。
この曲は、1934年同名の映画の主題曲として書き下ろしたもので、映画音楽としては彼の初仕事であった。
ものの本によれば、この映画のためにアーレンは4曲書いたそうだが、そのうち2曲は没にされたという。
ブロードウェイで上演される新作ミュージカルの場合でも、リハーサルをしながら脚本や演出、振付などの変更が行われるのがふつうで、それに伴って、曲が追加されたり削除されたりする。
だが、その場合には作詞者と作曲者は現場に立ち会って、自らの意見を述べたり、相談したりしながら、最終版を作っていくものである。
ところが、ハリウッドでは、作詞・作曲家は曲を提供したら仕事はそれでお終いなのである。
したがって、映画が完成してみたら、自分の曲が知らぬうちに削られていたということがしばしばあった。
ジョージ・ガーシュウィンが「ハリウッドの仕事は曲を作って渡すだけなので、ブロードウェイと違って面白くない」と語ったそうだが、アーレンもこれを「カリフォルニア・メソッド」と命名し、「まったく理解できない」と不満を述べていたという。
♪ ♪
さて、この曲の作詞はテッド・ケーラーで、「さあ、恋をしよう、恋をしてはいけないという理由はない」などとウキウキムードの歌詞を書いている。
♪ 恋をしましょう
恋をしてはいけないという理由はないでしょう
心というものは恋から作られる
恋をするチャンスを逃す手はないでしょう
なぜ恋することを恐れるの
目を閉じて 私たちの楽園を作りましょう
それがどんなものかわからなくても やってみることはできる
なんとかうまくやってみましょう
さあ、恋をしましょう
恋をしてはいけないと理由はないでしょう
私たちが若い今こそ 恋をするとき
さあ、恋をしましょう…
アーレンの曲はノリのいいリズムに特徴があり、多くの映画に取り上げられ人気を高めてきた。
この曲が世に出てからも映画『愛情物語』(THE EDDY DUCHIN STORY‐1956)をはじめ多くの映画に使われてきたが、心地よいスイング感とメロディを少し崩すフェイク向きのフレーズが散りばめられているため、ヴォーカルだけではなく器楽演奏としても多くの録音が残されている。

エラ・フィッツジェラルドやアニタ・オデイ、ナット・キング・コール、ルイ・アームストロングなどの歌を聴くと何だかムズムズと本当に恋をしたくなってくる(笑)。
こんなところにも「春」を感じるのは、私もまだまだ若いということか(笑)。
最近のお気に入りは、ダイアナ・クラールのヴォーカルである(WHEN I LOOK IN YOUR EYES‐1999)。
インストでは、オスカー・ピーターソンの黄金トリオからレイ・ブラウン(b)とエド・シグペン(ds)が抜け、新たにサム・ジョーンズ(b)とルイス・ヘイズ(ds)へとメンバーが入れ替わったばかりのオスカー・ピーターソン・トリオが、軽快なテンポでグイグイ飛ばす演奏が聴きものである(BLUES ETUDE‐1965)。

中でも、デューク・エリントンとエリントン楽団の至宝ジョニー・ホッジス(as)の共演盤“SIDE BY SIDE”(1959)では、ハリー・“スィーツ”・エディスン(tp)、ベン・ウェブスター(ts)が加わり、寛いだスウィング・セッションを繰り広げている。
ここでの演奏は、リスナーが幸福感に包まれるような心温まるものである。
恋してもお茶から先に進まない (蚤助)