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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#573: 意地の悪い歌だけど

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アメリカにおけるラジオの本放送は1920年ピッツバーグから始まったといわれている。
ラジオから流された最初のニュースというのは、大統領選の結果で第29代大統領ウォーレン・ハーディングの当選を伝えるものだったそうだ。

アメリカでレコード盤の販売枚数が初めて年間1億枚に達したのはその翌年の1921年のことだった。
楽譜の販売部数に代わって、レコード盤の売り上げがヒット・ソングのバロメローターになったのは、何といってもラジオから流れる音楽の力によるところが大きかったであろう。
ポピュラー音楽史から見れば、ラジオ放送が開始したこのあたりから、一般大衆の間に流行する歌、いわゆるポピュラー・ミュージックの世界が成立したとみるのが妥当かもしれない。

レコードの再生機(プレイヤー)もまだまだ一般家庭に十分普及していなかった1923年のこと、バート・カルマー、ハリー・ルビー、エディ(テッド)・スナイダーの3人が共作した“Who's Sorry Now”という楽曲の楽譜が売れに売れた。

Who's sorry now, Who's Sorry now
Whose heart is achin' for breakin' each vow
Who's sad and blue, Who's crying too
Just like I cried over you…

今は誰が後悔しているのか?
互いの誓いを破ったことで誰が心を痛めているのか?
誰が悲しみ落ち込んでいるのか? 誰がまた泣いているのか?
私があなたを想って嘆いているように…
こう始まるのだが、少し意地悪で皮肉まじりの歌であった。
破局を迎えたカップルの心情が綴られている。

自分を捨てて去って行った男(もしくは女)がフラれる羽目になった。
それを知って“お気の毒”といっているのだが、決して同情しているわけではなく、逆にいい気味だと喜んでいるのである。
他人の不幸は蜜の味がするし、嬉しい。
成功談より失敗談、惚気よりヒジテツを食らった話の方が座が盛り上がるし、好奇の対象となる。
何しろ“I'm glad that you're sorry now”(あなたが今後悔してるのが嬉しい)と言っているくらいなのだ。
ざまあみろ!というわけである。
人間の本性ってやつはそんなものなのだ(笑)。

コニー・フランシスは、ニューヨーク大学で心理学を専攻する大学生だったが、歌の才能の方に賭けて大学を中退した。
順調にレコード・デビューを果たしたものの発売したレコード10枚はいずれも全く売れず、そろそろ歌手としての将来に見切りをつけるべきか不安を感じていた。

子供の頃から家族みんなが歌っていたというこの“Who's Sorry Now”は、コニーの父親が好きな歌でレコーディングを勧められていたが、コニー本人はカビが生えたような古めかしい楽曲だと感じていてあまり関心がなかったのだ。
しかし、最後の曲となるかもしれない11枚目のレコードとしてこの曲を選んで吹き込んだ。

“誰しもみんな悔やんでいる、泣いている、でもそれは自分がしたことなのよ”と、今にも泣きだしそうな切なげな声で歌ったこの曲は1958年に発売されると、全米4位を記録するコニー最初のヒット曲となり、以後、彼女は数多くのヒット曲を連発し、1960年代のポップ・ヴォイスとなるのである。
この曲がヒットしていた58年にテレビ番組に出演して歌っている画像をこちらでどうぞ。

当時、彼女はまだ20歳くらいのはずで、心理学専攻の学生だったことを受けて日本での紹介記事にも“心理学応用の声”とあったそうだ(笑)。
そういえば、70年代のポップ・ヴォイスといわれるカーペンターズのカレンの歌声もコニーの声とよく比較されたものであった。

この曲、20世紀の名曲のひとつと評する人もいるほどで、現在に至るまで音楽ファンの心に訴えかけてくるものがあるが、歌の内容ほどマイナー調のイメージはなく、コニーの歌でも分かるように余韻を残すロッカ・バラード仕立てになっている。
男女どちらでも歌えそうな内容ではあるが、どちらかと言えば、女性シンガーによるものが中心で、サリナ・ジョーンズやオズモンド・ファミリーの紅一点、マリー・オズモンドのカヴァーが知られている。
特に、1975年、当時15歳だったマリーが吹き込んだものはあどけなさが残っていて甘酸っぱいムードが漂っている。
このマリー版は全米チャート入りを果たしている(こちら)。


(Marie Osmond)
男性歌手では、50年代の初めにディーン・マーティンがスウィング・ジャズのテイストで歌っているが、曲の印象はまるで違う(こちら)。
珍しいところでは、ピアノを弾きながらロックするジェリー・リー・ルイスのちょっと投げやりな歌もあった(こちら)。
ジェリーのヴァージョンは、傷心というよりは、自暴自棄という趣である(笑)。


(Nat King Cole)
さらには、コニーの歌が発売になる前年の1957年、ナット・コールがすでに歌っていた(こちら)。
ビリー・メイの編曲・指揮のオーケストラをバックに軽やかにスウィングしていてさすが“キング”である。
これも名唱のひとつに挙げておきたい。

あのころの後悔はもう時効です (蚤助)

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