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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#576: ショーシャンクの空に

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フランク・ダラボンが監督・脚本を担当した『ショーシャンクの空に』(The Shawshank Redemption‐1994)は、刑務所の所長や看守の暴力や虐待、囚人同士のいじめや友情、脱獄などのお膳立てが揃っていて、典型的な刑務所もの(?)として面白く仕上がっていた。

無冠に終わったもののアカデミー賞7部門にノミネートされたこの秀作が、公開当時は、興行的に当たらず赤字だったというのは信じ難い話である。
この年『フォレスト・ガンプ/一期一会』(ロバート・ゼメキス監督)、『パルプ・フィクション』(クエンティン・タランティーノ監督)、『スピード』(ヤン・デ・ボン監督)などの話題作と公開時期が競合したことが災いしたようだ。

ところがDVD化されると人気が出始め、現在では「好きな映画」や「感動する映画」のアンケートやランキング調査などでは必ず上位に入る人気作品となっているのだから不思議なものである。

原作はスティーヴン・キングの「刑務所のリタ・ヘイワース」という170ページほどの中編小説で、新潮文庫の「ゴールデンボーイ」に入っている。
キングのホラー作品は怖すぎるのであまり読まないのだが、タイトルに惹かれて読んだのである。
この「恐怖の四季」という作品集はホラーの要素は少しあるものの、どちらかと言えば奇妙な味のする作品集で、姉妹作品に当たる「秋冬編」にはあの「スタンド・バイ・ミー」の原作も収められている。


1947年、成功した銀行員アンディ・デュフレーン(ティム・ロビンス)は、妻とその不倫相手の射殺容疑で逮捕される。
裁判で無実を主張するが、終身刑の判決が下され、ショーシャンク刑務所に投獄されてしまう。
この刑務所は、所長のノートン(ボブ・ガントン)が絶対的な権力を振るい、囚人たちを支配していた。
そして、看守長ハドリー(クランシー・ブラウン)が先頭になった囚人に対する虐待や、囚人同士の諍い、暴行が日常的に行われていた。
初めは戸惑い、孤立していたアンディだったが、決して希望を捨てず、未来の自由を信じていた。

そんな中、日用品やタバコなど何でも外部から調達してくる“調達屋”レッド(モーガン・フリーマン)と知り合う。
アンディ同様終身刑を宣告されているレッドは仮釈放が認められず、20年以上も服役していた。
アンディは少しずつ他の囚人とも馴染んで、レッドとの交流も深まっていく。
彼は元銀行員の経歴を発揮し、刑務所内の環境改善に取り組み、やがてレッドや他の囚人からの信頼を高めていく…

アンディがレッドから調達してもらう映画女優のポスターが、リタ・ヘイワース、マリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチと変わって行くことで年月の経過を物語っているのが面白いし、主人公のティム・ロビンス、映画の語り手役となるモーガン・フリーマンほか、共演者がそれぞれ良い味を出している。
特に、半世紀もの間収監されていて図書係を務める老囚人ブルックスを演じたジェームズ・ホイットモアが、地味だけれどもとても良かった。


(ジェームズ・ホイットモア)
あまりに長く収監されていたため、仮釈放されても世間に馴染むことができず自死してしまう悲劇を上手に表現していた。

ブルックスの死を知ったレッドはこう言う。
「収監されると、初めは刑務所の塀を憎み、やがてその塀に慣れ、そのうちに塀に頼るようになる」

そのレッドは、アンディから「なぜレッドと呼ばれているんだ」と訊かれて、「アイルランド系だからさ」と答えるのが笑える。
フリーマンはアフリカ系アメリカ人なので、人種をネタにした一つのジョークになっているわけである。
もっとも、原作でのレッドは本名のレディングにちなんだニックネームだということになっている。

この映画、あちこちに含蓄のあるセリフが出てくるので、蚤助のようにネタ探しをしている者にとってはなかなか楽しいのだ。


やがて、その教養に注目され図書係になったアンディは、スピーカーで所内に「フィガロの結婚」のアリアを流し懲罰を受ける。
レッドと懲罰房から戻ってきたアンディとのやり取りである。

「2週間懲罰房にいて快適だったと?地獄だったろう」
「音楽を聴いていた」
「穴蔵でレコードを?」
「頭の中でさ、心でも。音楽は決して人から奪えない。そう思わないか?」
「昔ハーモニカをよく吹いていたが、入所してから興味をなくした」
「心の豊かさを失っちゃだめだ。人間の心は石でできているわけじゃない。心の中には何かがある。誰も奪えない何かがある。君の心にも」
「いったいそれは何だ?」
「希望だよ!」
「希望は危険だぞ。正気を失わせる塀の中では特にな」

もうひとつ、アンディの尽力で図書室に新しい本が増えることになり、みんなで仕分け作業をしている。

「“宝島”。ロバート・ルイス・スティーヴンソン」
「冒険ものだ」
「自動車の修理の本、石鹸彫刻の本」
「教育図書だ」
「“モンテクリスト伯”、著者は…アレグサンドリ・ダマス」
「アレクサンドル・デュマだ。内容は脱獄のハナシだ」
「それは教育図書に分類すべきだ」

アンディは金融の知識を生かして、看守の税務や投資相談をやりはじめ、所長の会計係まで担当するようになっていく。
そして、やがてアンディの殺人事件の真犯人が別にいることが明らかになるのだが…。
キングの原作ではその犯人は「スタンド・バイ・ミー」で主人公の親友クリスを刺殺した人物と同一だという設定になっている。

やはり鑑賞後の後味がよい秀作というべきであろう。

権力とタマゴ中から腐りだす (蚤助)

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