Quantcast
Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
Viewing all articles
Browse latest Browse all 315

#582: 物事は見かけほどには悪くない

$
0
0
チャップリンの映画はチャップリン自身が音楽を担当しているものが多いが、『モダン・タイムス』(1936)のラストに流れた曲は、1954年になってジョン・ターナーとジェフリー・パーソンズの二人によって歌詞がつけられた。
パーソンズは、前稿の「愛の讃歌」のエディット・ピアフの原詞を英語詞にした人である。
“SMILE”という実にシンプルなタイトルを付けられたその歌は、ナット・キング・コールで大ヒットした。

誰でも知っている簡単な単語ひとつだけの曲名というのは、それだけでも人を惹きつけるところがある。
この“SMILE”のほか、“LOVE”、“SING”など分かりやすい単語ひとつのタイトルこそ、シンプルな言葉の中に秘められた奥深いメッセージを感じさせるのかも知れない。


“DREAM”という曲も実にシンプルなタイトルだが、文字通り、夢見るような美しいメロディを持ったバラードである。

曲を作ったジョニー・マーサーは、「ムーン・リヴァー」や「酒とバラの日々」などの作詞家として有名だが、自ら曲も書き、歌も歌うという人だった。
太平洋戦争末期の1944年に、マーサー自身のラジオ番組のクロージング・テーマに使われ、その後いろいろなアーティストが相次いで吹き込んだレコードによって、大いにヒットした。
戦地の兵士や留守家族のノスタルジックな感情に強く訴えかけたのであろう。

恥ずかしながら、蚤助がこの名曲の存在を初めて知ったのは、「恋の季節」(1968)で大ブレークしたピンキーとキラーズのデビュー・アルバム『恋の季節〜とび出せ“キンピラ”』?、いや“チンピラ”?、いやいや“ピンキラ”(笑)の中で、ピンキーこと今陽子が英語詞で歌っていたものだった(こちら)。
当時、まだ高校生くらいだった彼女が、キラーズによるボサノバ・タッチの伴奏とコーラスを伴ってとても丁寧に歌っていた。
彼女と同年代の蚤助はそれを聴いてえらく感心し、以後ずっと心に残った歌であった。


(ピンキーとキラーズ/恋の季節〜とび出せ!ピンキラ)
Dream, when you're feelin' blue
Dream, that's the thing to do
Just watch the smoke rings rise in the air
You'll find your share of memories there
So, dream when the day is through
Dream, and they might come true
Things never are as bad as they seem
So dream, dream, dream…

夢を見て 気分がブルーな時は
夢を見て そんなときには夢を見るもの
今はただ 立ち昇る煙草の煙の輪を 見つめてごらん
きっと思い出がよみがえる
一日が終わるときには 夢を見て
そうすれば 夢が叶う
物事は見かけほどには悪くはない
だから夢を見て よい夢を…
こんな内容だが、次にこの歌を耳にしたのは映画を貪るように見始めてからのことで、1955年製作、フレッド・アステアとレスリー・キャロンが主演したミュージカル映画『足ながおしさん』(Daddy Long Legs‐ジーン・ネグレスコ監督)の劇中で流れたときであった。
やはりロマンティックないい曲だと思ったものである。

歌詞の中にさりげなく「煙草の煙の輪」というフレーズが入っているが、前述の通り、この曲はジョニー・マーサーが自身のラジオ番組のために書いたもので、この番組のスポンサーというのがタバコ会社(チェスターフィールド)だったのである…(笑)。

♪ ♪

(The Pied Pipers)
太平洋戦争の終わりも近い45年の3月頃からパイド・パイパーズのコーラスがうなぎ上りの人気でミリオン・セラー(こちら)となった。
続いてフランク・シナトラがアクセル・ストーダールの編曲でケン・ダービー・シンガーズを伴って1945年6月に録音、これもヒットし、スタンダード曲の仲間入りを果たすきっかけを作った。
シナトラはこの曲を2度録音していて、特にネルソン・リドルの編曲による1960年の再録音盤の歌唱が世に名高い。

ところで、ピンキーも、パイド・パイパーズも、シナトラも、みなコーラスから歌い始めている。
正直言って、この歌にヴァースがあるとは全く知らなかったのだが、エラ・フィッツジェラルドがシナトラと同じくネルソン・リドルの編曲で歌ったもの(1964)は、ヴァースからしっかり歌っている(こちら)。

ヴァースは結構扱いにくい存在で、あれやこれやの理由からあっさり割愛されることが多いのだが、実はヴァースあってこそコーラスが生きてくることもあるわけで、例えば、かの“STARDUST”をヴァース抜きで歌う人はさすがにいないであろう。

エラの歌うヴァースはこうである。

Get in touch with that sundown fellow
As he tiptoes across the sand
He's got a million kinds of stardusts
Pick your favorite brand, and …
冒頭に出てくる“get in touch with”は、「接触する、連絡をとる、渡りをつける」とかの意味だが、続く「日没野郎」(sundown fellow)というのが分かりにくい。
その後に「彼」(he)と出てくるので、これは「日没野郎」のことだろうし、英語の歌詞には大抵擬人化された表現が出てくるので、これは多分「沈んでいく太陽」のことなのだろう。
全体としては、日が暮れて、あたりが暗くなっていく様子を詩的に描いているらしいということが分かるのだ。
大ざっぱに訳すと「太陽が砂浜を爪先立って海の向こうに沈んでいく、その太陽をつかまえなさい。太陽はたくさんの星屑を手にしていく、あなたは気に入った星を選びなさい、そうすれば…」という感じだろうか。
そして素敵なコーラス部に入っていくわけである。

♪ ♪ ♪

(Roy Orbison)
「ヴェルヴェット・ヴォイス」といえば、ナット・キング・コールの歌声に相応しい形容だが、ロック&ポップの世界にもビロードのように艶やかで光沢のある声の持ち主がいた。
ロイ・オービソンは「クライング」とか「オンリー・ザ・ロンリー」などロック史上に燦然と輝く作品をいくつも残しているが、ハイトーンのドラマティックな歌声はなかなか印象的で、特に“ロンリー”(孤独)、“ブルー”(憂鬱)、“ドリーム”(夢)という言葉をキーワードにして多くの楽曲を作った。

そのオービソンも“DREAM”を歌っているのだが、まるで自作曲のようにしんみりとブルーに、しかしながらやがて朗々とドリーミーで美しい音楽世界に引き込んでいく。
歴代の大ヒット盤に比しても決して引けをとらない彼の歌唱は、こうした切々とした世界にはやはりピッタリである(こちら)。

♪ ♪ ♪ ♪
ピンキラの歌を初めて聴いて以来この曲は思い出深いものとなったが、特に大好きなフレーズがある。

Things never are as bad as they seem
物事は見かけほどには悪くない
苦しいとき、悲しいとき、こう考えられれば何とかなりそうな気がする…と思いたい(笑)!

白髪の苦労話がエンドレス(蚤助)

Viewing all articles
Browse latest Browse all 315

Trending Articles