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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#583: あの虹の向こう側に

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生涯60編以上の童話を世に出したというライマン・フランク・ボームの「オズの魔法使い」を初めて読んだのは、なぜか我が家にあった「世界児童文学全集」(こんな感じの名がついた全集で出版社も忘れてしまったが、全集の編集人の一人に文部大臣をやった作家・安倍能成の名前があったのをかすかに記憶する)の1巻(アメリカ編)であった。
かつて神童であった蚤助の小学生低学年の頃のハナシである(笑)。

読後の印象で今も記憶しているのは、オズの国へ向かうドロシー一行が、お花畑の中で突然眠くなってしまうという場面で、子供心にも結構強いインパクトがあった。
ケシのお花畑というのはそんなにも催眠作用があるものかと不思議に思ったものである…。

ボームは1900年頃から亡くなるまでのほぼ20年間に「オズ」のシリーズを14冊書いたそうだが、彼の死後にもいろいろな作家が「オズ」の続編を書き継いでいるそうだ。
それだけ世代を越えた多くの子供たちに愛されたシリーズだということであろうが、何といってもシリーズ1作目の「オズの魔法使い」が最もよく知られている名作である。


これをジュディ・ガーランド、レイ・ボルジャー、バート・ラー、ジャック・ヘイリーの主演でミュージカルとして1939年MGMが映画化した『オズの魔法使』(The Wizard Of Oz)も評価が高い作品である。
当時16歳だったジュディは、この映画でアカデミー特別賞を受賞、彼女が劇中歌った“OVER THE RAINBOW”(邦題「虹の彼方に」)もアカデミー作曲賞と歌曲賞を受賞、そしてこの歌をきっかけにミュージカル・スターへの道を歩み出し、生涯のテーマ・ソングとなったのだ。
伸びやかなジュディの歌声をオーケストラが優しく包む。
これを名唱といわずして何とする(笑)(こちら)。

Somewhere over the rainbow way up high
There's a land that I heard of once in a lullaby
Somewhere over the rainbow skies are blue
And the dreams that you dare to dream really do come true…

虹の向こうのどこか 空の高いところ
かつて子守歌で聞いた国がある
虹の向こうのどこか 空は青く
あなたの夢がまことになってしまう…
♪ ♪
この名曲誕生にはこんなエピソードがあった。

MGMから作曲を依頼されていたハロルド・アーレンは、ある日、ロサンゼルスで映画を観ようと妻を伴って車で出かけた。
その途中、ひとつのメロディが浮かんできた。
アーレン自身が語るところによれば、“Somewhere over the rainbow”という言葉もそのとき思いついたという。
翌日、アーレンは曲をまとめ上げ、作詞家のエドガー・イップ・ハーバーグに聴かせたところ、ハーバーグは「ネルソン・エディ(MGMミュージカルで活躍した人気歌手)にはいいが、カンサスの小娘には向いていない曲だ」と感想を述べた。
そこで、作詞家と作曲家は連れだってアイラ・ガーシュウィンに曲を聴いてもらうと、アイラは気に入ってくれた。
そこでハーバーグは腰を据えて詞を作り始めた。
こうして完成した“OVER THE RAINBOW”はジュディが歌い、ヴィクター・フレミングの手になる映画『オズの魔法使』の撮影もすべて終わった。

ところが、試写を見たMGMのお偉方にはこの曲の評判が悪く、この歌は少女が歌うのに相応しい曲ではない、と難癖をつけられカットを命じられたのだ。
しかし、この歌に惚れこんでいたプロデューサー補佐で、“SINGIN' IN THE RAIN”(雨に唄えば)の作詞者でもあったアーサー・フリードが強硬に抵抗して元に戻した。

ジュディは世紀の大スターとして、フリードは映画の大プロデューサーとして、「あなたの夢がまことになる」というこの歌の歌詞の通り、素晴らしい未来を手に入れることになったわけだ(笑)。

♪ ♪ ♪
ここに歌われる無垢な少女の思いこそ世代を越えた人々の夢なのかもしれず、そのためか、この曲には無数のヴァージョンが誕生することになる。


(Sarah Vaughan/In The Land Of Hi-Fi)
1950年代半ばに録音したサラ・ヴォーンは、原曲のファンタスティックな魅力と美しさを見事に表現している。
編曲・伴奏のアーニー・ウィルキンスのフル・バンドのうまさも際立っている(こちら)。


(The Modern Jazz Quartet/Fontessa)
インストでは、このモダン・ジャズ・カルテット(MJQ)のものが優雅で、比類なく美しい(こちら)。
誰もが知ってる曲を、他のアーティストにはない何か言い難い風格を感じさせる演奏だ(56年録音)。


(Bud Powell/The Amazing Bud Powell Vol.2)
そのMJQとは対極にありそうなのがこちらのバド・パウエルのピアノである。
天才的な閃きによる奔放な演奏で、これを無視できるはずはないだろう。

このほか、エリック・クラプトン、ウィリー・ネルソン、レイ・チャールズ、エラ・フィッツジェラルド、フランク・シナトラ、ローズマリー・クルーニー、オリヴィア・ニュートン・ジョン、美空ひばりなどスタイルやジャンルを問わず多くのアーティストが取り上げている。
どれも聴きものであるが、特に紹介しておきたいのがハリー・ニルソン。


(Nilsson/A Little Touch Of Schmilsson In The Night)
彼が“WITHOUT YOU”というヒット曲を飛ばした直後に、いわばシナトラの専属アレンジャーだったゴードン・ジェンキンスを迎えて、古き良きアメリカのポピュラー音楽の世界をじっくり歌った名カヴァー集である(73年録音)。
蚤助はリリースされたばかりのLPを入手したのだが、それには全12曲の中にこの曲は収録されていなかった。
CD化されたとき、別テイクも含めて未発表の録音がボーナス・トラックとして何と10曲追加されたのだ。
それも入手することになったのは当然だが、エンディング曲に“OVER THE RAINBOW”を持ってきているのを知って、欣喜雀躍したものだった(笑)。
ロックの時代にあえて逆らうようなジェンキンスのドリーミーなアレンジに乗って、ニルソンのロマンティックな思いと、スタンダード・ナンバーに対する強い愛情が伝わってくる(こちら)。

このニルソンの歌は、トム・ハンクスとメグ・ライアンが、映画『めぐり逢えたら』(Sleepless In Seattle‐1993)以来、再びノーラ・エフロンの演出で共演した『ユー・ガット・メール』(You've Got Mail‐1998)のサウンドトラックにも使われた。
それがなかなか良いので、ちょっとおまけをしちゃおう(こちら)。

なお、蛇足ながら、この映画のサウンドトラックには前稿で紹介したロイ・オービソンの“DREAM”も使われていた。

♪ ♪ ♪ ♪
ビルと野を虹が結んだ雨上がり(蚤助)


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