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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#446: 探偵物語

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1980年頃だったと思うが『探偵物語』という連続テレビドラマが放映されていた。
主演は今は亡き松田優作、探偵役としてなかなか面白い演技をしていた。
彼が亡くなってから一躍再評価され、彼の短い俳優生活を飾る傑作のひとつとされているようだ。

その後、根岸吉太郎監督による同名の『探偵物語』(83)という映画が製作されたが、こちらは原作が赤川次郎であった。
テレビドラマの方とは全く関係はないのだが、この作品でも松田優作は探偵役で出ていて、彼の相手役を務めたのはアイドル時代の薬師丸ひろ子だった。

題名からの連想だが、名匠ウィリアム・ワイラー監督にも『探偵物語』(51)という作品があった。
シドニー・キングズレーの舞台劇の映画化で、フィリップ・ヨーダンとロバート・ワイラーが脚色している。
ニューヨークの警察署の中で、刑事、犯罪者、容疑者、その恋人や被害者など、いろいろな人物が織りなす人間模様を描いたドラマで、一言でいえば群像劇である。

原題は“DETECTIVE STORY”で、よく言われることだが、邦題の方は内容から言っても「刑事物語」とした方が良かっただろう。
誤訳といっても良いかもしれない。

ドラマの中心となるのは、犯罪に対しては全く容赦なく、犯罪を犯す者には一片の同情も持たない厳格な鬼刑事で、これをカーク・ダグラスが演じた。

 (右・カーク・ダグラス/左・エリノア・パーカー)

この頃のカーク・ダグラスは、物事に対して鬼のような形相で立ち向かうという役どころが多かったと記憶する。
この映画でも、拳銃を持った犯人に素手で立ち向かうというようなシーンもあり、カーク・ダグラスお得意の歯をむき出した演技がもの凄い迫力である(笑)。

♪♪♪♪♪♪
ニューヨーク市警21分署の一室。
正義のために一切の妥協を許さない鬼刑事のカーク・ダグラス。
狭い刑事部屋にはたくさんの人間が出入りする。
ケチな万引き女(リー・グラント)、頭のおかしい強盗(ジョセフ・ワイズマン)、ダグラスが目の敵にする堕胎専門医(ジョージ・マクレディ)、ダグラスに抗議しにきた弁護士(ワーナー・アンダーソン)など様々な背景を負った人間たちが交錯する。
さらに同僚の温情刑事ウィリアム・ベンディックス、21分署長ホレス・マクマホンなど警察側の人間もいて、狭い刑事部屋に多くの人物が登場する。
それをウィリアム・ワイラーが堂々とした手綱さばきで、多彩な人物たちを上手に動かしている。
その上各人の性格の違いを際立たせているのも素晴らしい。

あまりにも頑ななカーク・ダグラスに、人情派の同僚ウィリアム・ベンディックスが諌めて言う場面がある。

 「風にはなびいた方がいい。さもないと折れてしまうぞ」

キングズレーの名戯曲の舞台ではおそらく警察署の中だけでドラマが展開することになっているのであろう。
映画では、屋外のシーンもちょっぴり出てくるが、カメラは刑事部屋からほとんど外に出ることがなく、それでもニューヨークという街の息遣いを伝える演出は見事な職人技である。

 (中央/カーク・ダグラス)

ワイラーのように上手い人は何を撮らせても上手いことを証明するような立派な作品だが、緊迫した物語は最後まで持続する。
ミステリーものと考えると一級品とは言い難いかもしれないが、刑事部屋の群像があまりにも生き生きしているのが素晴らしいし、限定された空間を通してアメリカの社会の一断面を眺めるという手法は今もなお全く古さを感じさせない。
エド・マクベインの87分署シリーズの原型もこの辺にありそうな気がする。

ラストには意外な結末が用意されているので、機会があればぜひ一見していただきたい作品である。

♪♪♪♪♪♪
本日の一句
「大都市に生きる過保護の土踏まず」(蚤助)

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