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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#603: 「転」の川柳

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ローリング・ストーンズが8年振りに来日している。
日本公演は6度目だそうだ。
東京ドームのGC席(ゴールデン・サークル、すなわち花道周辺の一角の特等席)のチケットは8万円だという。
60年代初めのバンド結成以来、一度も解散したことがなく、一貫して半世紀以上ロックし続けているというのは驚きの不良ジジイたちである(笑)。
もっとも、ビートルズなどと比較するとメロディー志向が全般に希薄なので、ファンの好き嫌いが割にはっきりしているスーパーバンドではないかと思う。

ローリング・ストーンズのバンド名は“A Rolling Stone Gathers No Moss”(転石苔を生ぜず)という諺に由来する。
「同じ場所にとどまらない石には苔が生えない」という意味だが、この諺はイギリスとアメリカでは捉え方が異なるのだという。
イギリスでは「職業や住居を転々とする人は成功しない」というネガティヴな捉え方であるのに対して、アメリカでは「活動的にいつも動き回っている人は能力を錆びつかせない」というポジティヴな解釈なのだそうだ。
保守的思考が強いイギリスと、フロンティア・スピリットに価値を置くアメリカとの違いなのだろう。

日本では同じような意味で「淀む水には芥溜まる」とか「流れる水は腐らず」とか“水”にたとえることがあるのは、やはり「水の国」だからだろうか。
そのほか「使う鍬は錆びない」という言い方もあることを考えれば、日本ではこの諺をどちらかといえばアメリカ流の意味として解釈しているということだろうか。


「転」の旧字は「轉」で「車+專」である。
「車」はもちろん「くるま」の象形、「專」の上部は「糸巻き」で下部は「手」の象形だという。
そこから「車を回す」という意味が出てくる。

大部分の漢字は、類型を表す記号「意符」と発音を表す記号「音符」の組み合わせで出来ている。
これを「形声文字」というらしいが、その意符と音符の組み合わせの位置関係は左右だったり上下だったり様々なヴァリエーションがあり、字典で部首とされているものが意符であることが多いという。
「轉」という漢字の場合は「車」が意符、「專」が音符ということになる。

そもそも「転」は、
   (1) 「くるくる回る、ころがる」の意味で運転・回転など
   (2) 「方向を変える、変わる、変化する」の意味で転向・転身など
   (3) 「場所を変える、移る、移す」の意味で転居・転記など
という使い方をするが、もう一つ、大事な意味があったね。

例えば、ソチ冬季五輪フィギュアスケート真央ちゃんについての森元首相の「あの子、肝心なときに必ず転ぶ」という使い方である(笑)。
すなわち、
   (4) 「ひっくり返る、ころぶ」の意味で転倒、転落など
である。

♪ ♪
ということで、今回はストーンズ来日と浅田真央ちゃんで、未だ紹介していなかったNHK文芸選評・川柳ネタのひとつ「転」の川柳である。
特に「字結び」という指定はないが、「転」という文字が入った句が多かったようだ。
「転ばぬ先の杖」であろうか…。

平成22年6月 課題「転」 大木俊秀・選

先ず転ぶことから学ぶ柔道部 (鷲野勝未)
正門で転び裏門から入る (森 昇)
偏差値の丘で転んでばかりいた (中 博司)
校門で泣く転校生の花子 (宍戸智子)
歩き初め最後はママの手に転ぶ (遠山 勇)
転がした方も転げるボーリング (高橋 勝)
おかわりの欲しい徳利を横にする (妹尾安子)
千鳥足していて父は転ばない (勝盛青章)
転勤にマージャンパイもつれてゆく (中村充一)
家族から単身赴任命じられ (鶴田昌憙)
立ち寄れと転居通知が嘘をつく (安元ふみき)
ゴキブリの機転に勝ったことはない (平井義雄)
ビー玉に見抜かれている安普請 (岡さくら)
掃除機の妻が寝転ばせてくれぬ (松田順久)
手を離せ君まで転ぶことはない (河内郷輔)
おひねりの上に転がる斬られ役 (鈴木正義)
転作がすんなりほっとする田んぼ (河浦邦子)
里山で地味にエコする水車小屋 (瀬古 博)
無茶すると地球が自転放棄する (山地勝彦)
俺が世の向き変えてやる転轍機 (川北英雄)


ガンのやつ転がり込んで乗っ取る気 (鹿野文雄)
母の手は転がるような飯握る (佐藤雅雄)
転がせば塁に出られる草野球 (三浦武也)
目の前でわざと転んでみせた恋 (岡本 恵)
回転の早いお店で旬を買う (角日しち)
ついて行く単身赴任させません (川島きみ子)
シャッター街回転焼は生き残り (山根吉城)
ボーナスで回転しない寿司にする (石井正人)
草野球球は転々塀がない (田口洋悦)
転がれば早いよなんて失礼な (佐野由利子)
客次第今宵野党になる女将 (匂坂順一朗)
生きるとは逆らわぬことかざぐるま (大黒政子)
転勤の最後の町で買った墓地 (問可圧子)
まあいいか左遷地で見る天の川 (玉田政子)
お転婆のそれでもほほを染めるとき (能田文夫)
転んだら最後と足に言いきかせ (高橋ツネ子)
転勤へ妻は糠味噌抱いて行く (白石天平)
転んでも素手では起きぬ老の意地 (白水盛雄)
食べながら笑い転けてる熟女たち (多良間典夫)

そして、大木先生に佳作に抜いていただいた拙句…

寝転んで敬語の電話かけている(蚤助)


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