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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#604: みんな笑った

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だいぶ以前、ここで取り上げたことがある“HOW ABOUT YOU”は「ものづくし」の歌で、その中では「ガーシュウィンの歌が好き」と歌われていた。
作詞はラルフ・フリード、作曲はバートン・レーンである。

そのガーシュウィンのやはり固有名詞がたくさん入った歌をひとつ思い出したので紹介しておきたい。
“They All Laughed”(みんな笑った)という曲で、作詞はアイラ、作曲はジョージ、すなわちガーシュウィン兄弟による作品である。
フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのコンビによる37年のミュージカル映画“SHALL WE DANCE”(邦題は『踊らん哉』)の中の一曲で、ジンジャー・ロジャースが歌い、アステアはロジャースと踊るだけという演出であった。
Youtubeにその場面がアップされているのでまずはご覧いただこう(こちら)。

こんなヴァースから始まる歌である。

The odds were a hundred to one against me
The world thought the heights were too high to climb
But people from Missouri never incensed me
Oh, I wasn't a bit concerned
For from history I had learned
How many, many times the worm had turned…

私に対するオッズは100対1
世間はその高さまで登るにはあまりにも高すぎると見ている
人が疑っても私は絶対へこたれない
そう 少しも心配していなかった 歴史というものを学んできたから
イモムシは何度も何度もひっくり返ってきたじゃないの…
アメリカのオッズ(賭け率)の a hundred to one (100対1)というのは、賭け事に疎い蚤助にはまるで見当がつかないが、後に続く歌詞から考えれば、その確率ははとても低い、つまり「百回に1回」(1%)程度でとても無理だということなのだろう。
3行目の from Missouri というのは「ミズーリ州から」という意味ではなく、「疑り深い」とか「証拠なしには信用しない」というイディオムで、ちゃんと英和辞典にも載っている。

以上のヴァースを経て、コーラスに入るのだが、いろいろな固有名詞が出てくる。

They all laughed at Christopher Columbus
When he said the world was round
They all laughed when Edison recorded sound
They all laughed at Wilbur & his brother
When they said that man could fly…

みんな笑った クリストファー・コロンブスが
地球は丸いと言ったとき
みんな笑った エジソンが録音しようとしたとき
みんな笑った ウィルバーと兄弟が
人間は飛ぶことができると言ったとき
みんなは マルコーニの無線なんてインチキだと言った

同じように あなたを待っている私をみんなが笑った
月に手を伸ばしているようだとも言った
私たちは幸せになれないと言った
みんな私たちを笑ったけれど ハ、ハ、ハ
最後に笑うのは誰だ?

みんなはロックフェラー・センターを笑った
今じゃみんなが行きたがっている
みんなホイットニーの綿繰り機を笑い、フルトンと蒸気船を笑い
ハーシーの板チョコを笑い、フォードのリジーを笑った

それが人間というもの みんな私を笑った
私たちは「ハロー!グッドバイ!」で終わるだろうって言った
でも 今ではみんなが恥じている
二人は一緒になれるわけがないと言った
ハ、ハ、ハ 最後に笑うのは誰だ?…

コロンブスやエジソンはお馴染みの名前だが、ウィルバーと兄弟というのは、兄ウィルバーと弟のオーヴィル・ライト、すなわち飛行機で初めて飛んだライト兄弟のことである。

以下、グリエルモ・マルコーニはイタリアの発明家・科学者で、無線通信技術の開発によりノーベル物理学賞を受賞している。
ロックフェラー・センターはお馴染みマンハッタンの中心部にそびえる高層ビルで、バブル時代に三菱地所が買って、その後のジャパン・バッシングの一因になったことは記憶に新しい。
クリスマス・シーズン到来を告げる巨大なクリスマス・ツリーが飾られることで有名である。
イーライ・ホイットニーは綿繰り機を開発し特許を取得、ロバート・フルトンはハドソン河で蒸気船の実験をし、二人ともアメリカの産業革命の一翼を担った人物である。
また菓子メーカーの創業者ミルトン・スネーベリー・ハーシーは、ミルク・キャラメルの製造技術を応用し、ミルクチョコレート・バー(板チョコ)を売り出し、現在もなお定番の板チョコとして広く愛されている。
また、ヘンリー・フォードの初期モデルであったリジーは大衆車として売り出されたが、当時はポンコツ車の代名詞であった。

なお、蛇足ながら「みんなが恥じている」と訳した部分は、 eat humble pie で、直訳だと「ハンブル・パイを食べる」という意味である。
humble は「卑しい」、 humble pie は「豚などの臓物で作ったパイ」であまり上等な食べ物ではないことから、それを食べるということは「仕方がないこと」、転じて「甘んじて屈辱を受ける」「恐れ入る」「詫びる」というニュアンスになるのだという。
とまあ少しはお勉強をしておかないとね。

以上、解説めいたことを記してしまったが、実はアステア=ロジャースの『踊らん哉』をDVDで観るずっと以前に、60年代末に録音したトニー・ベネットの歌を聴いていて、なかなか面白い歌だと思っていたのである。
当時の録音ではなく、彼の最近の歌をこちらで見つけたのだが、この動画の作成者はなかなか凝っていて、歌詞に出てくる固有名詞の画像を次々と登場させているのがなかなか楽しい。

前述のとおり、『踊らん哉』の中でアステアはこの曲を歌っていないのだが、後年、自分のアルバムで何度も録音している。
さらに、アステアの映画の歌ばかりを歌ったメル・トーメの歌唱は、アステアの粋とセンスが相通じるところがある彼の真骨頂である。


(Mel Torme Sings Fred Astaire)
このほか、エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングの楽しいデュエット盤もある。
そのエラ&ルイのヴォーカル・デュエットはこちらである。
というわけで、やはりとても面白い歌であるが、日本ではこういう曲を歌える人がいないのが残念と言えば残念である。


笑いじわアハハウフフと増えていく (蚤助)
坂道を笑い上戸の膝と下り (蚤助)
みんな笑って、句二句(苦肉)の作…?


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