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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#605: 卒業の日

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弥生、三月…。
世は卒業のシーズンである。
今月の「けやぐ柳会」の課題(久美子・出題)のひとつも「卒業」である。

卒業とは学業を終えて学校を去ることであるが、ある状況やある段階を体験して通り過ぎていくことにも使われる言葉なので、人生のさまざまな局面で「卒業」を体験するわけだ。
それまでの仲間、同僚、あるいは属していたいろいろな共同体、環境から離れ、人生の次の新しいステージへ踏み出そうとするけじめだということもできよう。


声を大にしてスタンダードだと言えるほどの曲ではないが、この時期にふさわしいので取り上げたいのが“Graduation Day”である。

ジョー・シャーマンとノエル・シャーマンの作で、この二人で有名なものとしては、かのナット・キング・コールのヒット曲“Ramblin' Rose”であろうか。
さらにジョー・シャーマンの方は、“ワシントン広場の夜は更けて”で一世を風靡したヴィレッジ・ストンパーズのアレンジャーとして、また“Diana”などポール・アンカの歌の共作者としても知られている。

将来への夢と希望と惜別の思いが交錯する卒業の日の情感を描いたこの歌は、元々ポップ曲として書かれたものである。
1956年、カナダのヴォーカル・グループ、ローヴァー・ボーイズ(こちら)と、フォー・フレッシュメンが、それぞれ同時期にビルボードのヒット・チャートにランクインさせている。

特に、オープン・ハーモニーを駆使したフォー・フレッシュメンは、その高度な技巧によって、この曲に単なるポップとは次元の異なる意匠を与えるとともに、彼らの代表的なレパートリーにしてしまうのである(こちら)。
ちなみに、フォー・フレッシュメンのヴァージョンは、最高位17位で、ローヴァーズ盤(16位)にわずかに及ばなかったものの、コーラス・ハーモニーの質と風格において、両者の間に雲泥の差があったことは誰の耳(!)にも明らかであった。
“Graduation Day”はまさにフォー・フレッシュメンによって名曲となったのだ。

There's a time for joy
A time for tears
A time we'll treasure through the years
We'll remember always
Graduation Day…

喜びの時があり 涙の時がある ずっと宝物のように思う時がある
僕らはいつも思い出すことだろう 卒業の日を

ダンス・パーティーで 夜中の3時まで踊った
あの時 君は僕にハートをくれたんだ
僕らはいつも思い出すだろう 卒業の日を

悲しみながら別れていくけれど 僕らが知ってるあらゆる喜びで
明日へと向き合って行けるだろう
分かるんだ 僕らは決して独りで歩んでいくことはないのだと
蔦の小道が 遥か昔のものになり
行く手がどこへ曲がっていようとも
僕らはいつも思い出すことだろう 卒業の日を

思い出すだろう いつも…
「ダンス・パーティーで」は、原詞では“at the senior prom”、アメリカの大学や高校で行われるダンス・パーティーのことで、『アメリカン・グラフィティ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』あたりの青春映画にも描かれているように、もうステディになっているカップルも、そうでないカップルも、好きな相手とダンスをするという、卒業や学年末などに開催される定番行事である。
「蔦の小道」は“the ivy walks”で、 学舎・キャンパスをイメージさせるものだが、ひょっとしたらアイヴィ・リーグ(ハーバードやエールといった伝統の古い名門大学)のことかもしれない。

フォー・フレッシュメンは、1948年インディアナポリスのバトラー大学に入学した4人の学生によって結成されたグループで、文字通り“4人の新入生”だったのだが、彼らはついに2年生になることはなかった。
その後、新入生のままでプロの道に入って行ったからである。
メンバー4人は、全員ソロ演奏が器楽専門のミュージシャンが舌を巻くほどの腕前を持っていて、自分たちの歌の伴奏は自分でこなしてしまった。
そのことが、ドライブ感のあるコーラスの魅力をさらに増し、彼らのライヴの素晴らしさの大きな要素でもあった。


(Four Freshmen/Graduation Day)
フォー・フレッシュメンは、モダン・ジャズ・コーラスのスタイルを確立した名グループである。
彼らが登場した当時、ミルス・ブラザース、ゴールデン・ゲート・カルテット、アンドリュース・シスターズ、ボズウェル・シスターズなどのコーラス・グループが活躍していたが、ジャズ特有の緊張と弛緩、スリルと寛ぎを楽器から肉声に置き換え、モダンなコーラス・ハーモニーを聴かせる新しいスタイルのグループとして高く評価された。
2011年に、ボブ・フラニガンとロス・バーバーというオリジナル・メンバー2人が他界して、フレッシュメンの黄金期を支えたメンバーが全員世を去ってしまったが、現在もなおメンバーを入れ変えて、年100回以上のライヴをこなしているという。

ハイ・ローズ、シンガーズ・アンリミテッド、マンハッタン・トランスファーなど、その後に活躍するグループに少なからぬ影響を与えている。
ロック&ポップの世界においても、ビーチ・ボーイズ、ママス&パパス、スパンキー&アワ・ギャング、レターメンなど美しいコーラス・ハーモニーのグループとして知られているが、彼らもフォー・フレッシュメンの影響を否定していない。
特に、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンは、フォー・フレッシュメンのコーラスを目標としたことを公言して憚らなかった。

そのビーチ・ボーイズは、特に初期のステージで、このフォー・フレッシュメン・クラシック“Graduation Day”を好んで取り上げていたが、そのチャレンジングな姿勢こそ、ビーチ・ボーイズの活動の原動力となったものであろう。
64年10月にリリースされた彼らのライヴ盤に収められたものを聴くと、ラストのコーラスを一人だけ騙されて歌ってしまうという演出(?)が施されていてなかなか楽しい仕上がりになっている(こちら)。


(Beach Boys Concert)
このアルバムは全米ナンバーワンを記録するのだが、彼らはこの年、クリスマス・アルバムも作っているので、1年間に4枚ものアルバムをリリースしたことになる。
デニス・ウィルソンの少し荒っぽい力任せのドラムスも微笑ましく、初期のビーチ・ボーイズの貴重なレコーディングとなっている。

なお、“Graduation Day”は、67年にアーバーズが歌ってリバイバル・ヒットさせている(こちら)。

おめでとう浮いた学費にありがとう (蚤助)


  

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