2003年に公開された『死ぬまでにしたい10のこと』(My Life Without Me)という映画は、癌で余命2か月と宣告された23歳の主婦が、それを誰にも打ち明けずにおくことを決意し、「死ぬまでにしたい10のこと」をノートに書き出して、一つずつ実行していくという物語だった。
その前年、同じように癌に連れ合いを奪われた蚤助にとっては身につまされる映画であった。
連れ合いが何もその思いを告げることなく先立っていくというのは、苦悩を共有できなかったという無念さにさいなまれて、残された者にとっては、死の喪失感以上に辛くて悲しいことなのではないかと思ったりした。
劇中、ヒロインの主婦(サラ・ポーリー)が、家事をしながら歌を口ずさむシーンが出てくる。彼女の歌は調子っぱずれなのだが、いかにも楽しそうに歌う。曲のメロディは確かに聞いたことがあるのだが、タイトルが思い出せない。映画を観終わったあとも、不思議にそのシーンが長いこと心に残ったのである。
その曲はビーチ・ボーイズの“God Only Knows”であった。決して普通の主婦が口ずさむタイプの歌ではないし、素人には難しい曲である。でも彼女は頑張って歌う。たぶん素直で無邪気な彼女のキャラクターを表していたのだと思う。
ビーチ・ボーイズは、66年にアルバム“PET SOUNDS”を発表して、サーフ・ミュージックを脱皮して大きく変化した。それ以前の、若さあふれる無邪気でさわやか、元気溌剌のビーチ・ボーイズ(もちろんそれは素晴らしいのだが)とは、違った音楽を展開していこうとする意欲が前面に出ていた。
“God Only Knows”は“PET SOUNDS”に収録された楽曲だが、作曲家としてのブライアン・ウィルソンの音楽の一つの頂点を示した作品かもしれない。ブライアンは、面識のあった広告マンのトニー・アッシャーに作詞を依頼、トニーは8曲ほど歌詞を書いたという。「詞を書いたのは僕だが、ブライアンの翻訳者にすぎない」というトニーの証言があるが、基本的なアイデアはブライアンのものだったのであろう。
GOD ONLY KNOWS (1966)
(Words by Tony Asher/Music by Brian Wilson)
I may not always love you
But long as there are stars above you
You never need to doubt it
I'll make you so sure about it
God only knows what I'd be without you...
いつも君を愛するとはいえないかも
でも頭上に星がある限り
この想いを疑う必要はない
そのことは君にも分かるだろう
君のいない人生がどんなものか 「神のみぞ知る」のだ...
ポップスのタイトルに初めて「神」が登場した作品だという。
この曲を聴いたポール・マッカートニーは「今まで聴いた中で最高の楽曲」と絶賛し、“Here There And Everywhere”(アルバム“REVOLVER”に収録)を書くきっかけとなったとされている。
余計な形容や装飾がないストレートでシンプルな歌詞だが、なかなか一筋縄ではいかないラヴ・ソングである。
If you should ever leave me
Though life would still go on, believe me
The world could show nothing to me
So what good would living do me?
God only knows what I'd be without you
もし君が去ったとしても
人生は続くかもしれない でも信じてほしい
そんな世界では僕には何も見出せない
生きていて良いことなどあるだろうか?
君がいないということがどんなことか 「神のみぞ知る」のだ
歌詞はもちろん、従来にはない苦いテイストが滲むメロディーで、これはまさにブライアンの新境地を表したものであろう。しかも、いつまでも人を愛したいという若々しい熱い想いが失われていない。
「君がいなくなったとしても、人生は続くかもしれない」と、サラ・ポーリーは口ずさんだ。そう、人生は続くのだ。私たちの人生もそうだ。それがどんなに切ないものであったとしても…。
ひとつずつ選びやって来た人生 蚤助
その前年、同じように癌に連れ合いを奪われた蚤助にとっては身につまされる映画であった。
連れ合いが何もその思いを告げることなく先立っていくというのは、苦悩を共有できなかったという無念さにさいなまれて、残された者にとっては、死の喪失感以上に辛くて悲しいことなのではないかと思ったりした。
劇中、ヒロインの主婦(サラ・ポーリー)が、家事をしながら歌を口ずさむシーンが出てくる。彼女の歌は調子っぱずれなのだが、いかにも楽しそうに歌う。曲のメロディは確かに聞いたことがあるのだが、タイトルが思い出せない。映画を観終わったあとも、不思議にそのシーンが長いこと心に残ったのである。
その曲はビーチ・ボーイズの“God Only Knows”であった。決して普通の主婦が口ずさむタイプの歌ではないし、素人には難しい曲である。でも彼女は頑張って歌う。たぶん素直で無邪気な彼女のキャラクターを表していたのだと思う。
ビーチ・ボーイズは、66年にアルバム“PET SOUNDS”を発表して、サーフ・ミュージックを脱皮して大きく変化した。それ以前の、若さあふれる無邪気でさわやか、元気溌剌のビーチ・ボーイズ(もちろんそれは素晴らしいのだが)とは、違った音楽を展開していこうとする意欲が前面に出ていた。
“God Only Knows”は“PET SOUNDS”に収録された楽曲だが、作曲家としてのブライアン・ウィルソンの音楽の一つの頂点を示した作品かもしれない。ブライアンは、面識のあった広告マンのトニー・アッシャーに作詞を依頼、トニーは8曲ほど歌詞を書いたという。「詞を書いたのは僕だが、ブライアンの翻訳者にすぎない」というトニーの証言があるが、基本的なアイデアはブライアンのものだったのであろう。
GOD ONLY KNOWS (1966)
(Words by Tony Asher/Music by Brian Wilson)
I may not always love you
But long as there are stars above you
You never need to doubt it
I'll make you so sure about it
God only knows what I'd be without you...
いつも君を愛するとはいえないかも
でも頭上に星がある限り
この想いを疑う必要はない
そのことは君にも分かるだろう
君のいない人生がどんなものか 「神のみぞ知る」のだ...
ポップスのタイトルに初めて「神」が登場した作品だという。
この曲を聴いたポール・マッカートニーは「今まで聴いた中で最高の楽曲」と絶賛し、“Here There And Everywhere”(アルバム“REVOLVER”に収録)を書くきっかけとなったとされている。
余計な形容や装飾がないストレートでシンプルな歌詞だが、なかなか一筋縄ではいかないラヴ・ソングである。
If you should ever leave me
Though life would still go on, believe me
The world could show nothing to me
So what good would living do me?
God only knows what I'd be without you
もし君が去ったとしても
人生は続くかもしれない でも信じてほしい
そんな世界では僕には何も見出せない
生きていて良いことなどあるだろうか?
君がいないということがどんなことか 「神のみぞ知る」のだ
歌詞はもちろん、従来にはない苦いテイストが滲むメロディーで、これはまさにブライアンの新境地を表したものであろう。しかも、いつまでも人を愛したいという若々しい熱い想いが失われていない。
「君がいなくなったとしても、人生は続くかもしれない」と、サラ・ポーリーは口ずさんだ。そう、人生は続くのだ。私たちの人生もそうだ。それがどんなに切ないものであったとしても…。
ひとつずつ選びやって来た人生 蚤助