秋も深まって、木枯らしの季節が近づいてきた今日このごろ、どんな音楽を聴こうかと考え込んでしまうのだが、秋はやっぱりヴォーカルだろうと、自分で勝手な突っ込みを入れている。ここはひとつ不世出のジャズ・シンガー、ビリー・ホリデイの歌う“What A Little Moonlight Can Do”(邦題「月光のいたずら」)なんていうのはいかがだろう。
この曲が発表されたのは1934年のこと。
ハリー・ウッズという人が作った歌だが、ドイツの著名なジャズ評論家のヨアヒム・E・ベーレントは、この曲を「安っぽくとるにたりぬ小唄」と断じ酷評した。
そのとるにたらぬ小唄を、ビリー・ホリデイは、曲が世に出た翌35年の7月2日、レコード・プロデューサー兼ジャズ評論家ジョン・ハモンドの肝煎りで彼女のために集めたミュージシャンからなるテディ・ウィルソン楽団の伴奏でレコーディングした。
メンバーは、テディ・ウィルソン(p)、ロイ・エルドリッジ(tp)、ベン・ウェブスター(ts)、ベニー・グッドマン(cl)、ジョン・トゥルーハート(g)、ジョン・カービー(b)、コージー・コール(ds)といった面々である。
ジョン・チルトンの書いた『ビリー・ホリデイ物語』(新納武正訳、音楽之友社刊)という本には、その日のセッションについてこう記述されている。
は、曲をものすごく速くうたってスイングさせるとき、リズムと融通性についての抜群のセンスがうまく発揮されて、彼女の才能が、スローなトーチ・ソングに限られていないことを立証したようである。
『月光のいたずら』という曲自体を酷評したベーレント先生ではあったが、このビリーの歌唱はさすがに高く評価し、名唱だと絶賛せざるを得なかった。
この曲は大ヒットし、ビリーは押しも押されぬジャズ・シンガーとしての道を歩みだすことになるのである。
また、テディ・ウィルソンのピアノ、ベニー・グッドマンのクラリネットに乗せて軽快にスウィングするこの曲は、後にいわゆる「スウィング・ジャズ」の先駆的な演奏だと評されることとなる。
そして、ビリーの躍動的でスウィング感あふれる唱法は、この歌のその後の歌い方まで決めてしまったと言っていいかもしれない。
もしビリーが取り上げなかったとしたら、果たしてこの曲が好個の素材として、多くのジャズ・シンガーに好まれるスタンダードとして残ることができたか大いに疑問である。
WHAT A LITTLE MOONLIGHT CAN DO (1934)
(Words & Music by Harry Woods)
Ooh, ooh, ooh, what a little moonlight can do
Ooh, ooh, ooh, what a little moonlight can do
You in love, your heart's fluttering all day long
You only stutter cause you for sure
Just throw that out of the way, I love you...
ウーウーウー、月の光は何をするの
ウーウーウー、月の光は何をするの
あなたの心を一日中恋のとりこにしてしまう
あなたは有頂天になって 何も手につかなくなってしまう
アイ・ラブ・ユー...
ベーレント先生の評を待つまでもなく、この歌は「月の光が冴えている夜は、月の光のせいで、何となくロマンチックな気分になってくる」という他愛のない小唄だが、ビリーが溌剌と歌ったものは必聴だと言いたくなってしまう。
先に「多くのジャズ・シンガーに好まれる」と書いたが、蚤助は寡聞にして男性歌手がこの曲を歌った例を知らないのだ。
カーメン・マクレエ、アニタ・オデイなどは、アドリブ・パートはそれぞれの個性で歌っているが、全体としてみるとやはりビリーの唱法を踏襲しているようだ。また、蚤助お気に入りの江戸前の情緒のような歌いっぷりのペギー・リーもやはりビリーの呪縛から逃れられていないようだ(笑)。
そうした中で、快速で飛ばすベティ・カーターは出色だ。1960年8月の録音で、伴奏はリチャード・ウェス編曲・指揮のオーケストラ。
テンポの設定は急速調だが、その歌い方、フレージングには独自性を発揮、ビリーとは違った解釈で迫ってくる。器楽的唱法のベティ・カーターは苦手なタイプのシンガーだが、この歌はスリリングな魅力にあふれた快唱で呆然とさせられる。
「月光のいたずら」というお題で一句。月光は、時としてこんないたずらをすることもある…かもしれないね。
ドアチャイム鳴って開けたら丸い月 蚤助
この曲が発表されたのは1934年のこと。
ハリー・ウッズという人が作った歌だが、ドイツの著名なジャズ評論家のヨアヒム・E・ベーレントは、この曲を「安っぽくとるにたりぬ小唄」と断じ酷評した。
そのとるにたらぬ小唄を、ビリー・ホリデイは、曲が世に出た翌35年の7月2日、レコード・プロデューサー兼ジャズ評論家ジョン・ハモンドの肝煎りで彼女のために集めたミュージシャンからなるテディ・ウィルソン楽団の伴奏でレコーディングした。
メンバーは、テディ・ウィルソン(p)、ロイ・エルドリッジ(tp)、ベン・ウェブスター(ts)、ベニー・グッドマン(cl)、ジョン・トゥルーハート(g)、ジョン・カービー(b)、コージー・コール(ds)といった面々である。
ジョン・チルトンの書いた『ビリー・ホリデイ物語』(新納武正訳、音楽之友社刊)という本には、その日のセッションについてこう記述されている。
は、曲をものすごく速くうたってスイングさせるとき、リズムと融通性についての抜群のセンスがうまく発揮されて、彼女の才能が、スローなトーチ・ソングに限られていないことを立証したようである。
『月光のいたずら』という曲自体を酷評したベーレント先生ではあったが、このビリーの歌唱はさすがに高く評価し、名唱だと絶賛せざるを得なかった。
この曲は大ヒットし、ビリーは押しも押されぬジャズ・シンガーとしての道を歩みだすことになるのである。
また、テディ・ウィルソンのピアノ、ベニー・グッドマンのクラリネットに乗せて軽快にスウィングするこの曲は、後にいわゆる「スウィング・ジャズ」の先駆的な演奏だと評されることとなる。
そして、ビリーの躍動的でスウィング感あふれる唱法は、この歌のその後の歌い方まで決めてしまったと言っていいかもしれない。
もしビリーが取り上げなかったとしたら、果たしてこの曲が好個の素材として、多くのジャズ・シンガーに好まれるスタンダードとして残ることができたか大いに疑問である。
WHAT A LITTLE MOONLIGHT CAN DO (1934)
(Words & Music by Harry Woods)
Ooh, ooh, ooh, what a little moonlight can do
Ooh, ooh, ooh, what a little moonlight can do
You in love, your heart's fluttering all day long
You only stutter cause you for sure
Just throw that out of the way, I love you...
ウーウーウー、月の光は何をするの
ウーウーウー、月の光は何をするの
あなたの心を一日中恋のとりこにしてしまう
あなたは有頂天になって 何も手につかなくなってしまう
アイ・ラブ・ユー...
ベーレント先生の評を待つまでもなく、この歌は「月の光が冴えている夜は、月の光のせいで、何となくロマンチックな気分になってくる」という他愛のない小唄だが、ビリーが溌剌と歌ったものは必聴だと言いたくなってしまう。
先に「多くのジャズ・シンガーに好まれる」と書いたが、蚤助は寡聞にして男性歌手がこの曲を歌った例を知らないのだ。
カーメン・マクレエ、アニタ・オデイなどは、アドリブ・パートはそれぞれの個性で歌っているが、全体としてみるとやはりビリーの唱法を踏襲しているようだ。また、蚤助お気に入りの江戸前の情緒のような歌いっぷりのペギー・リーもやはりビリーの呪縛から逃れられていないようだ(笑)。
そうした中で、快速で飛ばすベティ・カーターは出色だ。1960年8月の録音で、伴奏はリチャード・ウェス編曲・指揮のオーケストラ。
テンポの設定は急速調だが、その歌い方、フレージングには独自性を発揮、ビリーとは違った解釈で迫ってくる。器楽的唱法のベティ・カーターは苦手なタイプのシンガーだが、この歌はスリリングな魅力にあふれた快唱で呆然とさせられる。
「月光のいたずら」というお題で一句。月光は、時としてこんないたずらをすることもある…かもしれないね。
ドアチャイム鳴って開けたら丸い月 蚤助