Quantcast
Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
Viewing all articles
Browse latest Browse all 315

#656: 何て愚かな私

$
0
0
イギリス製の芝居には馴染みが薄いので、『地球を止めてくれ!私は降りたい』(Stop The World‐I Want To Get Off)というちょっと変わったタイトルのミュージカルはよく知らない。ただ、この作品から素晴らしい名歌が生まれたことはよく知っている。
“What Kind Of Fool Am I”(邦題「何て愚かな私」)という曲で、以前こちらでふれたことがあるアンソニー・ニューリーとレスリー・ブリッカスの手になる歌である。
このふたり、当時はまだ無名の存在だったが、舞台装置などをシンプルにしたりして、ともかく金をかけない工夫を凝らしたことがかえって目新しく大評判となったらしい。
これでニューリー&ブリッカスというコンビが有名になった。ニューリーは作、演出、主演をこなし歌も自分で歌った。
ロンドン初演が61年、好評を博したたためブロードウェイにも進出した。

この曲は、特にサミー・デイヴィス・ジュニアによる62年のドラマチックな熱唱が有名だが、彼はひところこの曲をたいそう好んで歌っていたこともあって、この曲を有名にしたのは彼の功績だと断言してもよい。
サミーのレコードは同年のグラミー賞(最優秀歌曲賞)を受賞した。


余談だが、ニューリーは63年にイギリスのケン・ヒューズが監督した『俺は殺られる!』(The Small World Of Sammy Lee)という小粒のサスペンス映画に出演した。この映画には、彼の部屋にサミー・デイヴィス・ジュニアのレコードジャケットが飾ってあるという場面が登場する。筋の展開とはまったく無関係だが、ニューリーのサミー・デイヴィス・ジュニアへの個人的な謝意だったかもしれない、という趣旨のことを和田誠さんが書いていた。蚤助もこの映画を確かに観ているのだが、もちろんそんなシーンなどまるで記憶にない(笑)。
 
WHAT KIND OF FOOL AM I (1961)
(Words & Music by Anthony Newley & Leslie Bricusse)

What kind of fool am I who never fell in love
It seems that I'm the only one that I have been thinking of
What kind of life is this
An empty shell, a lonely cell in which an empty heart must dwell...

何て愚かな私 恋をしたこともない
考えてみたけど そんな人間は私だけのようだ
何ていう人生だろうか
空っぽの貝殻 空虚なハートが住む寂しい小部屋

何て唇だ 偽りの口づけをし 空々しい愛の言葉をささやく
そんなのは自分を孤独にするだけだ
なぜほかの人々のように恋ができないのだろう
恋をすれば どんなに私が愚かか 分かるのかもしれない…
「人生というものが分かっているのか、なぜ芝居の仮面を捨てて、自分の人生を生きられないのだ、何て愚かな私だ…」という自嘲的な男の歌である。もっとも、シャーリー・バッシー、ナンシー・ウィルソンやカーメン・マクレエといった女性歌手も自分のレパートリーにこの曲をしっかりと入れていた。
基本的には、サミーのように声量のある歌い手が歌って映える曲だが、艶っぽさのかけらもない色気抜きの歌詞と相まって、時として聴き疲れをすることもある。
だからというわけでもないが、ペリー・コモのようにその持ち味であるソフト・タッチの歌唱も味わい深い。


インストでは、ビル・エヴァンスがソロ・ピアノでプレイしているものとか、カウント・ベイシー楽団の楽しい演奏とかいくつかの面白い録音があるが、思ったほど数は多くない。やはりどちらかと言えばジャズにはなりにくい曲なのだろう。

それにしても、スタンダード・ナンバーの中には“Fool”という語がキーワードになった名曲がたくさんあることを改めて確認した次第だ。
例えば、過去記事にも取り上げた“Fools Rush In”、“I'm A Fool To Want You”、“My Foolish Heart”をはじめ、“Why Do Fools Fall In Love”、“A Fools Such As I”、“Fool On The Hill”などがすぐ思いつく。そこに共通しているのは、主に恋した人を揶揄したり、この“What Kind Of Fool Am I”のように自虐的な意味合いで使われることが多いということだ。
まあ、恋なんてものは、ある日突然、予告もなしにやってくる地震のようなもの。もしかしたら次の瞬間に襲ってくるかもしれないのだ、あなたのところにも、もちろん蚤助のところにも…(笑)。そのまま恋をするにせよ、やめるにせよ、どうぞご自由に、というところか。

サングラス空(カラ)の頭によく似合う  蚤助

Viewing all articles
Browse latest Browse all 315

Trending Articles