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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#681: クレイジー・フォー・ユー

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21日の春分の日、久しぶりに観劇をしてきた。浜松町にある四季劇場「秋」における「クレイジー・フォー・ユー」の公演である。併設されている四季劇場「春」では、例の「ライオン・キング」がロング・ラン中で家族連れで賑わっていたが、こちらの方も東京近県からの観劇ツアーの団体と思しき御一行もいて満席であった。

「クレイジー・フォー・ユー」はガーシュウィンの楽曲をふんだんに使ったミュージカル・コメディで、92年にブロードウェイで初演、スーザン・ストローマンが振付けたタップダンスと洗練されたダンス・ナンバーが評判を呼んだ作品である。1930年の古いミュージカル「ガール・クレイジー」の改作にあたるが、無論、ストーリーは全く異なるボーイ・ミーツ・ガールものだ。

蚤助は今からちょうど20年前の95年にブロードウェイのシューバート劇場で上演されていた公演を観ていて、現代にあってはもはや貴重となったタップダンスとガーシュウィンの音楽の素晴らしさに改めて感心した思い出の作品であった。


日本では93年に劇団四季が東京で初演、以降は全国各地で断続的に上演されている人気の作品となっている。少なくとも、ダンス・ナンバーはブロードウェイ版と比較しても遜色はないと思う。ただ、ガーシュウィンの音楽が日本語の歌詞(訳詞は和田誠&高橋由美子)で歌われるというのは面映ゆいところがあって、最初のうちはなかなかストーリーにすんなり入っていけなかった。もっともこれは蚤助の感覚の問題で、決してキャストや訳詞者の責任ではない…(笑)。

ミュージカル・ナンバーで印象的だったのは、工具の斧やロープを使ってベースを弾く仕草を群舞に仕立てた“Slap That Bass”の新鮮さ、二人の役者(松島勇気と青羽剛)のナンセンスでユーモラスなシンクロ・ナンバー“What Causes That?”、主人公ボビー(松島)が恋人ポリー(岡村美南)を忘れられぬ葛藤を表す躍動的な“Nice Work If You Can Get It”、そしてのこぎり、金槌、つるはし、鍋のふたなどを使い、それを打楽器やリズム楽器に転用して盛大に歌い踊る“I Got Rhythm”などだ。いずれもストローマンの卓越した振付けの妙が堪能できる。

また、ショウのリハーサルの場面で高く積み上げられた椅子を観て「このバリケードを片付けるんだ。まさか、例のフランス革命のミュージカルをやるつもりじゃないだろうな?」というセリフが出てくるが、これが「レ・ミゼラブル」を指していることは明らかだ(笑)。パロディーの形をとりながら、「キャッツ」「レ・ミゼラブル」「オペラ座の怪人」「ミス・サイゴン」など英国製のミュージカルが、当時のブロードウェイに与えた衝撃の痕跡がこのセリフに表れている。もっとも、20年前のブロードウェイ公演はそんなこともあまり感じず、ただ漠然と面白がって観ていたことが我ながら情けないが、この「クレイジー・フォー・ユー」はアメリカ製(ブロードウェイ)ミュージカル・コメディの復権という大役を任された作品であったようで、事実そういう劇評もあったようだ。

ガーシュウィンの名曲“But Not For Me”や“They Can't Take Takat Away From Me”などのナンバーもやはりいいが、何と言ってもショウ・ストッパーはヒロインのポリーが歌う“Someone To Watch Over Me”であろう。このナンバーが歌われると万雷の拍手が起こるお約束になっているのだ(笑)。

イギリスの大女優ガートルード・ローレンスが初めてアメリカ製ミュージカルに出演したのが26年の「オー、ケイ!」だった。ガーシュウィン兄弟が書いたこの曲は、ヒロインを演じたローレンスが歌って大ヒットした。お金持ちの息子がケイに恋をする。でも彼女はその屋敷の酒蔵の鍵が目当てだった、という禁酒法時代の少し危なげな恋物語だったようだ。

原題の watch over の訳し方を十分 watch しなかったため、長いこと「誰かが私を見つめている」という邦題で知られてきたが、 watch over は「~を注意して見守る」というような意味なので、今では「私を見守る誰か」「誰かが私を愛している」というニュアンスをこめて「やさしき伴侶を」などという邦題が定着している。

元々、ジョージ・ガーシュウィンはダンス・コーラス用にアップ・テンポの曲として作り、兄のアイラもそのつもりで作詞したそうだが、あるときジョージが何気なくテンポを落として弾きはじめたらピッタリきたということで、劇中ではスロー・バラードとして使ったというエピソードが残っている。それ以来、バラードの名曲として知られている。

SOMEONE TO WATCH OVER ME (1926)
(Words by Ira Gershwin / Music by George Gershwin)

There's a saying old says that love is blind
Still we're often told "seek and you shall find"
So I'm going to seek a certain lad I've had in mind
Looking everywhere, haven't found her yet
He's the big affair I cannot forget
Only man I ever think of with regret
I'd like to add his initials to my monogram
Tell me where's the shephered for this lost lamb

古い諺は言う 恋は盲目だと
それにまた 「求めよ、さらば得られん」とも教えられてきた
だから私は探し求めるつもり 心に描いてきた若者を
でも あちこち探したけれど まだ見つけられない
きっと彼と忘れない 大きな恋愛をするのね
別れるようなことがあれば 後悔するただ一人の人となる
彼のイニシャルを私のに付け加えたい
ねえ教えて 迷子の子羊を導く羊飼いはどこ
ちょっと長いが、ここまでがヴァース(序詞)で、続けてコーラス(本詞)…

There's a somebody I'm longing to see
I hope that he turns out to be
Someone to watch over me

I'm a little lamb who's lost in a wood
I know I could always be good
To one who'll watch over me

Although he may not be the man some girls think of as handsome
To my heart he carries the key

Won't you tell him please to put on some speed
Follow my lead, oh how I need
Someone to watch over me, someone to watch over me

逢いたくてたまらない人がいる
彼がそうであってほしい
私を見守ってくれる人であれば

私は森の中で迷子になった可哀想な子羊
でもきっといつでもいい子でいられる
私を見守る誰かのためなら

彼は女の子がハンサムだと思う男じゃないかもしれないけど
私の心にとっては鍵を握る人なの

彼に伝えてほしい もっと急いでほしいって
私に追いついて捕まえてって だって私には
見守ってくれる誰かが必要なんだもの
この曲、ロナルド・レーガン元米大統領が俳優時代に主演した「恋の乱戦」(49年)、ジュリー・アンドリュースがガートルード・ローレンスを演じたロバート・ワイズの大作ミュージカル「スター!」(68年)、リドリー・スコットが撮った傑作サスペンス「誰かに見られている」(87年)、日本では草剛が主演した「ホテル・ビーナス」(04年)など、多くの映画で使われている。

さすがにガーシュウィン兄弟の傑作だけに、録音も数多く枚挙に暇がないが、ここはアン・バートンのしっとりとした歌唱でどうぞ。伴奏のルイス・ヴァン・ダイク・トリオ+ワンのサポートも実に見事である。


インストは、巨匠オスカー・ピーターソンの職人技で代表させておこう。


ところで、話は戻るが「クレイジー・フォー・ユー」のブロードウェイ版と劇団四季版の最大の違いといえば、それは劇場の椅子の硬さであった。四季劇場の座席は3時間以上座っているとお尻が痛くなってくる。それに引換え、ブロードウェイの大劇場の座席の快適さといったら…(笑)。

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