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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#502: 本が書けそう

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掲帯電話をはじめ、パソコン、スマートフォンなどが当たり前の現代の若い人にとっては、もはや死語かも知れないが、かつて「ペン・フレンド」とか「文通」といったことが、若者の間で盛んだった時代があった。
これらは活字文化の中で育った世代に共通する思い出深い言葉かもしれない。
自筆の文字や文章を通じて、豊かなイメージの広がりを楽しんでいたのだ。


たとえば「文通」である。
学生や若者向けの雑誌などの読者のページなどに掲載される「ペン・フレンド求む!」などという投書が女学生の名前だったりすると、ヒマを見て手紙を書くのである。
特に相手の女学生が「吉永小百合」などという美少女風の名前だったりすると、思わず頑張っちゃうわけである(笑)。
相手からも返事が来て、何回かやりとりをしているうちに、よせばいいのに「写真を送ってください」などと書く。

やがて、リンゴのような頬のとっても健康そうなセーラー服姿の女の子の写真が送られてくる。
もっとも、こちらの方もジャガイモに学生服を着せたような写真を送っているので、だいたいはそのあたりで文通が終わるというのが相場であった。
そうして、イメージと現実とのギャップを埋められないまま、自らの愚行を深く反省するのであった(笑)。

♪ ♪
「ペン・フレンド」は「ペン・パル」ともいうが、フレンドと同様に“PAL”は「友達、仲良し、仲間」という意味だから、本ブログのタイトル「けやぐ」に相当する言葉である。

以前にもミュージカル『パル・ジョーイ』(PAL JOEY)について書いたが、作曲家のリチャード・ロジャースは作詞家ロレンツ・ハートとのコンビの時代が最高だったと思う。
ロレンツ・ハートという作詞家は単純な言葉を使いながら、ちょっとひねった表現をし、都会派でとにかく粋なのである。
その『パル・ジョーイ』の中の一曲が、“I COULD WRITE A BOOK”である。
最近では、“Twitter”やら“Facebook”なんていう双方向のコミュニケーション・ツールもあるくらいだから、ちょっとませている子供ならば、ひょっとしたらこの歌の文句みたいなものをすでに書いているかもしれない。

 ♪ ABCDEFG 勉強しなかったので 綴りがよくわからない
   1234567 大きな数字は数えられない
   けれど 習ったことは使いたくて うずうずしている
   時間を無駄にしたくない
   鉄は熱いうちに打とう

と、ここまでがヴァース(前振りの語り)の中身で、続いてコーラス(本編)では、

 ♪ I COULD WRITE A BOOK 書けと言われりゃ本にだって書ける
   あなたの歩き方や 囁き方について
   つまり あなたについて
   私の恋については 本が書けるほど…

という風なことを歌っている。
要するに「あなたとの恋のいきさつなら本に書けるほど、私は素敵な恋をしている」と言っているのだ。
単純だけれども実に巧みな表現ではなかろうか。
続いて、前書きは「私たちの出会い」で、あらすじは「どんなに私があなたを愛しているか」ということ、最後のページで「世間の人は、どうしたら友達が恋人に発展するかを知るだろう」とまるで一冊の本の内容のように展開していく歌詞が面白いし、説得力がある。
メロディもシンプルな良さがあり、それが粋な歌詞とうまくマッチしている。

基本的にはシンプルな歌だが、ジャズ・シンガーが好んでレパートリーにし、今でも多くの歌手によって歌われている。

1940年の舞台で創唱したのはジーン・ケリー、彼はこの舞台で注目され、二年後にハリウッド入りし、スター街道を歩み始めるのである。
57年の映画化(『夜の豹』、何というひどい邦題をつけてくれたのだと、またまたここで嘆いておこう!)ではフランク・シナトラが畢生の名唱を聴かせた。
圧倒的にヴォーカル・ヴァージョンが多く、歌っている顔ぶれも、シナトラを筆頭に、ベティ・カーター、ダイナ・ワシントン、トニー・ベネット、キャロル・スローン、アニタ・オデイ、サラ・ヴォーン、エラ・フィッツジェラルド等々、まさにオールスターズである。

インストではマイルス・デイヴィス・クインテットが、かの有名なマラソン・セッションの4枚のアルバム中、2枚目にリリースされた『RELAXIN' WITH THE MILES DAVIS QUINTET』(1956)で取り上げている。
レッド・ガーランドのピアノのイントロから、マイルスが寛ぎに満ちた粋なトランペットを吹く。
「卵の殻の上を歩く」と形容された彼のミュートによる繊細で軽妙な語り口が堪能できる。
マイルスの軽妙さに対するテナーのジョン・コルトレーンはフレーズの持続と伸びやかさと気迫のこもったソロをとる。
続いて、ガーランドの右手が躍動感にあふれたプレイをして、テーマに戻る。
ポール・チェンバースとフィリー・ジョー・ジョーンズのコンビは、例によって新鮮なバックアップをしている。
マイルスのオリジナル・クインテットによる唯一無二の名演奏である。

♪ ♪ ♪
振り返ってみると、経緯はよく覚えていないのだが、中学生のころには山口県の男子中学生、高校生のころは名古屋の女子高生が、私の「ペン・フレンド」であった。
山口のカレには結局一度も会うことはなかったが、名古屋の女子高生の方は、夏休みの北海道旅行の途中、わざわざ我が家に立ち寄ってくれたこともあったし、私が東京の大学へ進学すると、わざわざ上京してデートらしきことをしたこともあった。
よく日焼けした活動的な女の子であったが、お互いアルバイトやら学業やら忙しくなったせいか、文通の方はやがて自然消滅してしまった。

本日の一句
「ワープロの手紙乱筆許せとは」(蚤助)



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