Quantcast
Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
Viewing all articles
Browse latest Browse all 315

#511: 字結び

$
0
0
このところ、日替わりのように気温の上下が大きく、一日の中でも朝と昼の寒暖の差が激しいので、服装の調節、体調の管理がなかなか難しい。
だが、関東地方にも春の足音は確実に近づいているようで、我が家の沈丁花はほぼ満開になっていて、辺りに芳香を漂わせている。
とはいえ、今年は特にスギ花粉の飛散量が格別に多いということで、花粉にとてもナイーヴな私はその芳香を十分に味わうことができないでいるのが残念である。


さて、川柳の作り方には、作者自身がテーマや句の材料を選んで何ものにもとらわれることなく作る「雑詠」(自由吟)と、我が「けやぐ柳会」のように句のテーマや材料があらかじめ与えられ、それによって句を作る「題詠」(課題吟)がある。

題詠(課題吟)では、課題と句が呼応して生み出す世界や風景が作品を膨らませるのだが、課題の言葉を作品に取り込んで作る「読み込み」の場合と、課題の言葉を作品に直接取り込まずに暗示やシンボルを提示しながらイメージとして作る場合がある。
もちろん、どちらが良いとか悪いとかいうハナシではなく、課題の内容や性格によっておのずと使い分けられることになる。

題詠(課題吟)の中でも、特殊な出題方式として「字結び」というのがある。
通常は漢字一字だけ出題されることが多いが、一句の中に、課題の漢字一字を必ず読み込まなければならないというのがルールである。
字結びの場合、課題の漢字は、音読みであれ訓読みであれ、どんな形で用いてもよいこととされている。

たとえば、「空」という課題の場合には、「青空」、「空財布」、「空気枕」、「空振り」、「空しい」、「空々しい」でもいいし、「円空仏」や「孫悟空」であっても構わない。
むしろ意表を突いた「空」の着想が珍重されるのである。
このあたりが一般の題詠とは違うところで、多分に「お遊び」の要素が強いものとなる。

♪ ♪
NHK文芸選評・川柳は、題詠(課題吟)が原則だが、時々「字結び」とされることがあって、これが面白い。
満開の我が家の沈丁花ではないが、一昨年(平成23年)4月の課題は「満」の字結びであった。

辞書ではだいたい以下のように記載されてある。

「満」
「みちる」、「みたす」の意。
呉音で「マン」、漢音で「バン」、訓読みで「み‐ちる、み‐たす、み‐つ、みち、みつ、みつる、ま」。
熟語として「満悦、満額、満月、満身、満足、満タン、満面、充満…」

平成23年4月といえば、東日本大震災の翌月のことで、ちょうど昨日まる2年の追悼式が各地で行われたばかりであった。
そういう状況下にあったことを念頭に置いた上で、「NHK文芸選評・川柳作品集」(平成23年4月放送分)を見てみよう。
なお、この月は選者の大木俊秀さんから拙句を佳作として抜いていただいている。

♪ ♪ ♪
課題「満(字結び)」 (大木俊秀・選)
満身で呼べど捜せどがれき山 (葛西行雄)
満身創痍光るしかない蛍です (佐藤セツ子)
集落に喜び満ちる鯉のぼり (大窪りんず)
満開の花に肝臓会いたがる (吉川 勇)
満面の笑みも疲れる選挙カー (松岡七郎)
満期利子夫婦のランチにも足らず (松岡 篤)
解約の元気なく満期のふたり (伊藤石英)
満腹と言っていたのにもうケーキ (村松英明)
満腹へすぐ牛になる癖がある (正信寺尚邦)
硝子戸にまだ満更でない私 (富岡桂子)
若すぎる齢に見られるのも不満 (澤 磨育)
参観日満艦飾でこないでね (石田かね子)
判定に不満な方が負けている (丸山芳夫)
図書館で頭の空腹を満たす (松田順次)
当然と見えた満塁策裏目 (藤井道夫)
満点の妻に先立たれた誤算 (島 友造)
満たされて歌を忘れたカナリアに (岡本 恵)
仮設でも力の満ちる槌の音 (坂牧のぶ美)
東には済まぬが水は田を満たす (平松由美江)
列島は助け合う気で満ちている (平井義雄)

満塁に代打のいない草野球 (薄木博夫)
満員御礼の垂幕がみたい (桐生静子)
衣食住足りる私にある不満 (菅井京子)
満面で笑うとみんな油断する (伊藤三十六)
ご不満でしょうかわたしのお酌では (椎野 茂)
満載の支援が走る奥州路 (加藤敏子)
満腹の知恵に鋭い冴えがない (馬場美昭)
不満など無いはずがない妻の顔 (森 錠次)
満腹になると人間らしくなる (嶋田富士雄)
満点は互いに付けぬ嫁姑 (阪口洋之助)
満場一致に吹くうそ寒い風 (三村一子)
アンケートやや満足にまるをつけ (漆原千恵子)
ひとり部屋覗く満月なら許す (小倉慶四郎)
叱れない満点ママでないわたし (問可圧子)
夫婦円満へまた夫が折れる (天野弘士)
夫婦円満の妙薬は教えない (三吉伸子)
大丈夫かな満員のロープウェイ (江川寿美枝)
豊満な妻はんなりと帯を締め (平井翔子)
満開の桜浄土を見るごとし (多良間典男)
この月、拙句は佳作だったが、振り返ると社会的な視点が希薄だったと自省する私の「満」の句はこれだった。

満ち足りた一日メガネ拭いて締め


Viewing all articles
Browse latest Browse all 315

Trending Articles