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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#529: 「おどる」川柳

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「おどる」は、「踊る」と表記する場合と「躍る」と表記する場合がある。
「跳」や「踏」と同様、「踊」も「躍」も足偏であり、それぞれ足による動作や行為を表していることは容易に推測できる。
だが、あまり明確にその違いを意識したことはなかった。

舞踊の「舞」というのは基本的には上半身の動きと旋回運動を意味し、「踊」の特徴は跳躍運動なのだという。
その理屈で言うと、跳躍運動が多い西洋舞踊はまさに「踊り」というべきで、日本の舞踊はどちらかといえば「舞」の要素が強いというのは何となく納得できる。

「おどる」を調べてみると、?「ワルツを‐」というように「音楽などに合わせて体を動かす」場合や、?「札束に‐政治家」という言い方のように「他者に操られて行動する」という意味で使うのが『踊る』である。
一方、?「銀鱗が‐」など「飛び跳ねる」、?「心が‐」や「血湧き肉‐」など「ワクワクする」、?「悪路に車が‐」など「激しく揺れ動く」、?「手紙の文字が‐」など「書いた字が乱れたり躍動している」という意味の場合には『躍る』を使うのだという。

いずれにしても、「おどりあがる」「こころがおどる」という語感から推察されるように「喜び」や、時には「狂気」など人間の感情の高まりからくる身体的な表現を指す言葉であることは間違いない。



3年ほど前になるが、平成20年11月、NHK文芸選評の課題は「おどる」であった。
私はこの「踊る」と「躍る」の違いをあまり意識しないまま投句したのだが、幸いにも安藤波瑠先生に入選作として抜いていただいた。

ステップを覚え青春やり直し (蚤助)
拙句にはたまたま「おどる」という語が入っていないので、下手にいいかげんな句を作って赤っ恥をかくことは避けることができたのである。

「おどる」というと、映画好きの私としては、アステア=ロジャース、ジーン・ケリーや、「ウエスト・サイド物語」などのミュージカル映画、邦画だと周防正行の「Shall we ダンス?」、古くは吉村公三郎(監督)、新藤兼人(脚本)の「安城家の舞踏会」などという作品を連想してしまうのだが、最近の若い人だとどうだろうか。
今では「クラブ」(平板アクセント)というらしいが、かつてバブルの時代に流行った「ディスコティック」(ディスコ)や原宿の「竹の子族」などの例を出すまでもなく、世代によって「おどる」イメージは随分違うのではないかと思う。

川柳に親しんでいる人はどちらかといえばやはり年配者が多いのであろう。
安藤波瑠先生の選による作品集では「盆踊り」というイメージが優勢のようだが、どうかさまざまに「おどる」姿を楽しんでいただきたい。

♪ ♪
課題「おどる」 安藤波瑠・選

背もシワも伸して踊る麦屋節 (室岡一夫)
夏祭りおどり上手が恋がたき (浅野範子)
雨音も弾むふたりで雨宿り (岡本 恵)
鍋一つ囲み家族の箸おどる (小西章雄)
歌ったり踊ったりして孫育つ (近藤 駿)
笛吹けど踊らぬ少女引きこもり (宍戸智子)
踊り場にためらいひとつ落ちている (八木孝子)
裏舞台諭吉主役で踊らされ (福嶋 裕)
金の鈴猫も杓子も踊り出す (早川一水)
安い米それでも踊るコンバイン (安藤キサ子)
血は涌くが肉が踊りに付いて来ぬ (平井義雄)
踊りにはふれず着物をほめられる (森 錠次)
ワンテンポずらして踊る天の邪鬼 (目方すみ子)
広告が踊れ踊れとけしかける (細井ヤス子)
アメリカの主役チェンジのミュージカル (坂牧のぶ美)
乱高下株価は踊る地球規模 (山内清和)
あれこれと数字がおどる選挙前 (石津弥好)
早よとめて薬缶の蓋が踊ってる (冨田 實)
どうせなら踊る阿呆であの世まで (田村なり子)


汗まみれコンダクターの背は踊る (村上参太郎)
ねんぶつをとなえたくなる踊りぐい (平山和男)
旅先の踊りおぼえてきた手足 (小林としお)
盆踊り櫓の妻のしわが消え (山本二郎)
盆踊り明けていつもの過疎の村 (日月英昭)
おどる子も泣く子も晴着七五三 (坂向邦一)
婆さんの腰も艶めくフラダンス (沢田正司)
コスモスがダンスを見せる休耕地 (山本智子)
鰤網にマンボウ踊る温暖化 (米澤たもつ)
踊り手の指の先までズームイン (堀切多喜子)
妻の手で半世紀ほど踊らされ (加藤ゆみ子)
通販にまた踊らされゴミの山 (富田雅之)
中吊りの見出しに踊る好奇心 (中田克昭)
ロボットが何れ名取りで弟子をとる (奥田 実)
振り込めに老いの優しさ踊らされ (三浦武也)
納豆の次はバナナに踊らされ (武内 敬)
おどりの輪みんなまあるい顔になる (佐藤哲夫)
バイキングあれもこれもと目が踊る (宮本 実)
輪の中に子も孫も居て盆踊り (高杉心作)
編み笠に踊ればみんな美男美女 (中川 光)




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