女性にガンマンという言い方はおかしいので、女性ガンファイターと呼ぶべきかも知れないが、西部開拓時代に活躍したカラミティ・ジェーンは、本名をマーサ・ジェーン・カナリー(1852 or 1856‐1903)といった(冒頭画像)。
「平原の女王」という異名もあった彼女は自叙伝を書いているが、誇張や作り話が多くて、記述されている内容をそのまま信じることはできないという。
よく言われることだが、西部のホラ話とか、与太話はアメリカン・ジョークの原型のようなものでなかなか愉快なものもあり、彼女の自叙伝なるものもそんな類のものなのかも知れない。
「カラミティ(Calamity)」という言葉は「(地震などの)大災害、(失明などの)災難、(一般に)不幸、苦難」という意味だが、ジェーンにそんなあだ名がつけられたのは、彼女がプロの斥候(スカウト)として活躍していたころ、数々の困難を切り抜けたり、苦難を克服したからだとか、逆に彼女が次々と騒動を起こすので男たちから揶揄されて献上されたものだとか、諸説あるようだ。
♪
その伝説的な西部の女丈夫カラミティ・ジェーンを描いた映画はいくつかあって、古いところでは、セシル・B・デミルの「平原児」(THE PALINSMAN‐1936)で、ジェーンを演じたのはジーン・アーサー、ジェーンと縁の深い北軍の兵士上がりのガンマン、ワイルド・ビル・ヒコックを演じたのはゲーリー・クーパーであった。
![]()
「腰抜け」シリーズで一世を風靡したボブ・ホープの「腰抜け二挺拳銃」(THE PALEFACE‐1948)では、ジェーンを「ジェーン」・ラッセルが演じている。
ノーマン・Z・マクロード監督のこの作品では「バッテンボー」で有名な主題歌“Buttons And Bows”(ボタンとリボン)がアカデミー主題歌賞を獲得したことでも知られている。
![]()
1953年の映画「カラミティ・ジェーン」(CALAMITY JANE‐デヴィッド・バトラー監督)ではドリス・デイがジェーンを演じた。
![]()
1924年生まれのドリス・デイは今年で89歳になる。
85歳になって新しいアルバムを出してヒットさせているトニー・ベネットに対抗したわけでもあるまいが、数年前にニュー・アルバムをリリースし、アルバムチャートの史上最高齢でのトップ10入りを果している。
以前ふれたことがあるが、ペギー・リーはビートルズのポール・マッカートニーのアイドルだったが、ドリス・デイも好きだったようで、彼らのラスト・アルバム“LET IT BE”(1970)に収録されたジャム・セッション曲“DIG IT”の歌詞には、FBI、BBC、B.B.キングやマット・バズビー(イングランド・サッカー・プレミア・リーグの名門マンチェスター・ユナイテッド<香川が在籍中>の当時の監督)のほかにドリス・デイという名前も登場する。
♪ ♪
彼女は、明るく気取らない親しみやすいキャラクターで、世界的な人気者になった女性歌手であり、多くの映画にも出演した。
だが「パジャマ・ゲーム」とか「二人でお茶を」などいくつかの例外を除けば、意外なほどこれといったミュージカル作品がない。
ひとつには、彼女が属した映画スタジオが、多くのミュージカル作品で定評があったMGMではなく、どちらかといえばフィルムノワールとか文芸物を得意としていたワーナーだったということもあったかもしれない。
MGMのミュージカルのような美しい色彩感覚や華やかさに欠けるのである。
映画スターとしては、ヒッチコックの「知りすぎていた男」でのシリアスな演技でその才能を開花させ、以後は芸能界を引退する70年代半ばまでコメディエンヌとして活躍した。
![]()
「カラミティ・ジェーン」はドリスが自ら手を挙げて出演を希望したのだそうだ。
同じ西部の伝説的な女傑アニー・オークレーを主人公にした傑作ミュージカル「アニーよ銃をとれ」の向こうを張った感じなのだが、アーヴィング・バーリンの不滅の楽曲がふんだんに詰め込まれた「アニー〜」と比べると、こちらは佳曲でも少々地味な印象がぬぐえない。
ただ、相手役のワイルド・ビル・ヒコックを演じた美声のハワード・キールとともに、若々しく元気いっぱいの溌剌としたドリス・デイの演技と歌唱は際立っている。
ドリス自身、この映画へ出演してから、その人気を不動のものとしたのだった。
特に、劇中ドリスが歌った“SECRET LOVE”(秘めたる恋)は、ワイルド・ビル・ヒコックへの恋心を歌ったもので、同年のアカデミー主題歌賞を獲得した。
作詞はポール・フランシス・ウェブスター、作曲はサミー・フェインである。
Once I Had A Secret Love
That Lived Within The Heart Of Me…
心に秘めた恋があった
その恋は自由になりたがって 仕方がなかった
だから 夢見る人がそうするように
親しい星に話したの
貴方がどんなに素敵なのか
なぜ貴方に恋をしてしまったのかってことを
今 一番高い丘の上から叫ぶわ
黄水仙に話したことさえも
ようやく 心の扉は開け放たれて
私の秘めた恋は もう秘密ではなくなるの…
こういう歌は、ジャズだとかポップスだとかと議論するのはまったく無意味であり、ドリス・デイの歌だ、ドリス・デイでなければ話にならない、ということで素直に耳を傾けるべきだと思う。
ドリスの歌は54年にミリオン・セラーとなり、日本でも多くの女性歌手が競って録音した。
同年にはドリスの歌とともにスリム・ホイットマン盤がヒットし、66年にはビリー・スチュワート、75年にはフレディ・フェンダーがリバイバル・ヒットさせていて、スタンダード化している。
ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、イーディ・ゴーメ、カーメン・マクレエなども録音していていずれも好唱だが、やはりドリス・デイにはかなわない。
インストでは印象的なものを2枚紹介しておこう。
![]()
左はハンプトン・ホースの“THE GREEN LEAVES OF SUMMER”(1964)で、モンク・モンゴメリー(b)、スティーヴ・エリントン(ds)を従えたピアノ・トリオの好盤である。
モンクはウエスの兄貴、スティーヴは天才ドラマー、トニー・ウィリアムスの従兄弟といういずれも血筋の良いプレイヤーだが、ホースと比べると小粒で、ほぼ彼の独り舞台といった印象である。
ホースは、黒人ながらも明るく洗練されたブルース・フィーリングの持ち主で、ここでも流れるようなスムーズなタッチで軽快に聴かせる。
右は、日本のモダンジャズには欠かせぬピアニスト本田竹曠(竹彦・竹広)の名盤“THIS IS HONDA”(1972)で、共演は鈴木良雄(b)、渡辺文雄(ds)。
ジャケットのアフロ・ヘアを見ると時代錯誤のアンチャンといった風情だが、ハンプトン・ホースよりずっと黒っぽい感じがするブルース感覚は特筆に値する。
岩手県宮古出身だけに、日本人のソウルはどっこい東北人が持っていると思わせるほどである。
彼は惜しくも2006年に亡くなってしまったが、奥さんがナベサダの実妹のジャズ・シンガー(チコ本田)、本作で共演したドラマーがナベサダの実弟、また彼自身ナベサダのバンドのピアニストだったこともあり、渡辺貞夫ファミリーの一員といってもよい。
あまりにピアノのタッチが強いので、演奏中にピアノのチューニングが狂ってきたり、一晩のライヴで弦を二本も切ったり、ジャズ評論家の故・油井正一さんに「野武士の酒盛り」と評されるなど、そのピアノ・プレイの剛腕についてのエピソードにはこと欠かない。
ここでは、原曲のワルツ・タイムを見事なフォー・ビートのスウィング・ナンバーに仕立て直していてご機嫌である。
また、このアルバムは非常に優秀な録音盤であることでも知られていて、オーディオ・チェックなどには最適なアルバムであることを付言しておく。
♪ ♪ ♪
“SECRET LOVE”では、秘めた恋を「もう隠せない、だから貴方への思いを星に打ち明ける」と歌われるのだが、星と違ってお月様の方はちゃんと知っている。
澄む月に見透かされてる隠し事 (蚤助)
「平原の女王」という異名もあった彼女は自叙伝を書いているが、誇張や作り話が多くて、記述されている内容をそのまま信じることはできないという。
よく言われることだが、西部のホラ話とか、与太話はアメリカン・ジョークの原型のようなものでなかなか愉快なものもあり、彼女の自叙伝なるものもそんな類のものなのかも知れない。
「カラミティ(Calamity)」という言葉は「(地震などの)大災害、(失明などの)災難、(一般に)不幸、苦難」という意味だが、ジェーンにそんなあだ名がつけられたのは、彼女がプロの斥候(スカウト)として活躍していたころ、数々の困難を切り抜けたり、苦難を克服したからだとか、逆に彼女が次々と騒動を起こすので男たちから揶揄されて献上されたものだとか、諸説あるようだ。
♪
その伝説的な西部の女丈夫カラミティ・ジェーンを描いた映画はいくつかあって、古いところでは、セシル・B・デミルの「平原児」(THE PALINSMAN‐1936)で、ジェーンを演じたのはジーン・アーサー、ジェーンと縁の深い北軍の兵士上がりのガンマン、ワイルド・ビル・ヒコックを演じたのはゲーリー・クーパーであった。

「腰抜け」シリーズで一世を風靡したボブ・ホープの「腰抜け二挺拳銃」(THE PALEFACE‐1948)では、ジェーンを「ジェーン」・ラッセルが演じている。
ノーマン・Z・マクロード監督のこの作品では「バッテンボー」で有名な主題歌“Buttons And Bows”(ボタンとリボン)がアカデミー主題歌賞を獲得したことでも知られている。

1953年の映画「カラミティ・ジェーン」(CALAMITY JANE‐デヴィッド・バトラー監督)ではドリス・デイがジェーンを演じた。


1924年生まれのドリス・デイは今年で89歳になる。
85歳になって新しいアルバムを出してヒットさせているトニー・ベネットに対抗したわけでもあるまいが、数年前にニュー・アルバムをリリースし、アルバムチャートの史上最高齢でのトップ10入りを果している。
以前ふれたことがあるが、ペギー・リーはビートルズのポール・マッカートニーのアイドルだったが、ドリス・デイも好きだったようで、彼らのラスト・アルバム“LET IT BE”(1970)に収録されたジャム・セッション曲“DIG IT”の歌詞には、FBI、BBC、B.B.キングやマット・バズビー(イングランド・サッカー・プレミア・リーグの名門マンチェスター・ユナイテッド<香川が在籍中>の当時の監督)のほかにドリス・デイという名前も登場する。
♪ ♪
彼女は、明るく気取らない親しみやすいキャラクターで、世界的な人気者になった女性歌手であり、多くの映画にも出演した。
だが「パジャマ・ゲーム」とか「二人でお茶を」などいくつかの例外を除けば、意外なほどこれといったミュージカル作品がない。
ひとつには、彼女が属した映画スタジオが、多くのミュージカル作品で定評があったMGMではなく、どちらかといえばフィルムノワールとか文芸物を得意としていたワーナーだったということもあったかもしれない。
MGMのミュージカルのような美しい色彩感覚や華やかさに欠けるのである。
映画スターとしては、ヒッチコックの「知りすぎていた男」でのシリアスな演技でその才能を開花させ、以後は芸能界を引退する70年代半ばまでコメディエンヌとして活躍した。

「カラミティ・ジェーン」はドリスが自ら手を挙げて出演を希望したのだそうだ。
同じ西部の伝説的な女傑アニー・オークレーを主人公にした傑作ミュージカル「アニーよ銃をとれ」の向こうを張った感じなのだが、アーヴィング・バーリンの不滅の楽曲がふんだんに詰め込まれた「アニー〜」と比べると、こちらは佳曲でも少々地味な印象がぬぐえない。
ただ、相手役のワイルド・ビル・ヒコックを演じた美声のハワード・キールとともに、若々しく元気いっぱいの溌剌としたドリス・デイの演技と歌唱は際立っている。
ドリス自身、この映画へ出演してから、その人気を不動のものとしたのだった。
特に、劇中ドリスが歌った“SECRET LOVE”(秘めたる恋)は、ワイルド・ビル・ヒコックへの恋心を歌ったもので、同年のアカデミー主題歌賞を獲得した。
作詞はポール・フランシス・ウェブスター、作曲はサミー・フェインである。
Once I Had A Secret Love
That Lived Within The Heart Of Me…
心に秘めた恋があった
その恋は自由になりたがって 仕方がなかった
だから 夢見る人がそうするように
親しい星に話したの
貴方がどんなに素敵なのか
なぜ貴方に恋をしてしまったのかってことを
今 一番高い丘の上から叫ぶわ
黄水仙に話したことさえも
ようやく 心の扉は開け放たれて
私の秘めた恋は もう秘密ではなくなるの…
こういう歌は、ジャズだとかポップスだとかと議論するのはまったく無意味であり、ドリス・デイの歌だ、ドリス・デイでなければ話にならない、ということで素直に耳を傾けるべきだと思う。
ドリスの歌は54年にミリオン・セラーとなり、日本でも多くの女性歌手が競って録音した。
同年にはドリスの歌とともにスリム・ホイットマン盤がヒットし、66年にはビリー・スチュワート、75年にはフレディ・フェンダーがリバイバル・ヒットさせていて、スタンダード化している。
ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、イーディ・ゴーメ、カーメン・マクレエなども録音していていずれも好唱だが、やはりドリス・デイにはかなわない。
インストでは印象的なものを2枚紹介しておこう。


左はハンプトン・ホースの“THE GREEN LEAVES OF SUMMER”(1964)で、モンク・モンゴメリー(b)、スティーヴ・エリントン(ds)を従えたピアノ・トリオの好盤である。
モンクはウエスの兄貴、スティーヴは天才ドラマー、トニー・ウィリアムスの従兄弟といういずれも血筋の良いプレイヤーだが、ホースと比べると小粒で、ほぼ彼の独り舞台といった印象である。
ホースは、黒人ながらも明るく洗練されたブルース・フィーリングの持ち主で、ここでも流れるようなスムーズなタッチで軽快に聴かせる。
右は、日本のモダンジャズには欠かせぬピアニスト本田竹曠(竹彦・竹広)の名盤“THIS IS HONDA”(1972)で、共演は鈴木良雄(b)、渡辺文雄(ds)。
ジャケットのアフロ・ヘアを見ると時代錯誤のアンチャンといった風情だが、ハンプトン・ホースよりずっと黒っぽい感じがするブルース感覚は特筆に値する。
岩手県宮古出身だけに、日本人のソウルはどっこい東北人が持っていると思わせるほどである。
彼は惜しくも2006年に亡くなってしまったが、奥さんがナベサダの実妹のジャズ・シンガー(チコ本田)、本作で共演したドラマーがナベサダの実弟、また彼自身ナベサダのバンドのピアニストだったこともあり、渡辺貞夫ファミリーの一員といってもよい。
あまりにピアノのタッチが強いので、演奏中にピアノのチューニングが狂ってきたり、一晩のライヴで弦を二本も切ったり、ジャズ評論家の故・油井正一さんに「野武士の酒盛り」と評されるなど、そのピアノ・プレイの剛腕についてのエピソードにはこと欠かない。
ここでは、原曲のワルツ・タイムを見事なフォー・ビートのスウィング・ナンバーに仕立て直していてご機嫌である。
また、このアルバムは非常に優秀な録音盤であることでも知られていて、オーディオ・チェックなどには最適なアルバムであることを付言しておく。
♪ ♪ ♪
“SECRET LOVE”では、秘めた恋を「もう隠せない、だから貴方への思いを星に打ち明ける」と歌われるのだが、星と違ってお月様の方はちゃんと知っている。
澄む月に見透かされてる隠し事 (蚤助)