前稿で「今日は俺だ」と言い残して、リチャード・ウィドマークが命を落としてしまったので、それを受けて本稿では「君去りし後」である(笑)。
“AFTER YOU'VE GONE”(邦題「君去りし後」)は、1918年、ヘンリー・クリーマーの詞にターナー・レイトンが曲をつけたとても古い歌である。
![]()
クリ―マーとレイトンは、ボードビリアンで歌手兼ピアニストとしてコンビを組んでいて、ミュージカルのスコアも共同で書いている。
他の楽曲では“WAY DOWN YONDER IN NEW ORLEANS”(1922)も有名で、こちらも現在でもサッチモの歌などで時折耳にすることがある。
フレディ・キャノンのポップ・ロック路線の歌もヒットした。
さて、“AFTER YOU'VE GONE”だが、スタンダードのソングブック集などでは、大抵最初か2〜3曲目に登場する。
アルファベット順に曲が並ぶことが多いからだが、この曲より前に出てきそうなのは“AFTER HOURS”とか“(AN) AFFAIR TO REMEMBER”くらいのものだろうか。
ところどころどこかで聞いたようなメロディが顔を出すが、それもそのはず、当時流行していた曲のメロディを引用して即興的に作られた歌だからである。
当時から盗作ではないかとの噂が絶えなかったようだが、まあ、流行した曲の良いとこどりのようなものなので、それがかえって親しみやすく、特にスイング派、ディキシー系ミュージシャンのお気に入りの楽曲となった。
1920年代に人気のあったマリオン・ハリスという白人女性歌手の録音が最も古いものとして知られているが、その後、ブルースの皇后ベッシー・スミスをはじめ、アル・ジョルソン、ソフィー・タッカー、ルイ・アームストロングら多くの歌手や楽団がカヴァーするようになった。
コール・ポーターはこの曲から“ANYTHING GOES”(1934)を作ったと言われているが、なるほど歌い出しの部分はそっくりである。
![]()
♪ あなたは去って行った 私を泣かせたまま
あなたは去って行った その事実は間違いない
きっと哀しくなって ブルーな気持ちになる
愛する人がまた恋しくなる
忘れないで あなたが後悔する時が きっと来る
いつか寂しくなって 今の私のように
心がズタズタになって そしてまた私を求めるだろう…
こんな内容だが、実は歌い手によって歌詞が違っていることが多い。
そんなに難しい内容ではないのだが、いろいろな解釈が可能だということからきているようだ。
主人公が、男か女かでまるで違うものになるし、怒って突き放しているのか、悲しんで未練タラタラなのか、それぞれの解釈ができるのだ。
しかし、基本的なところは上記のような内容である。
意地悪く考えると、曲の出来上がりがやっつけ仕事のようなもので、歌詞もどちらかといえば曖昧というような楽曲が、スタンダード・ナンバーの系列に連なるというのは、作者の意図とか才能とかいうものを超えて、歌ったり演奏したアーティスト、またそれを支持した多くの聴衆の力によるものだということになるのかもしれない。
作者コンビの意図は、単純に恋人が離れて出て行こうとするのを引き留めているという歌であろう。
ところが、主人公は恋人にフラれて「きっと寂しくなって私のことが恋しくなるのよ!」なんて、結構自惚れが強い女性のようなイメージがある。
しかも「あなたは悲しみに耐えかねて、私を求めることになるのよ」と来るから意外に図々しい女である(笑)。
男女の別れの歌は演歌と共通する世界ではあるが、このあたりが演歌の世界との決定的な違いのような気がする。
ただ、フラれたのは女性だという保証はどこにもないわけで、やはりこういう思考経路というのは女性であろう…というただの蚤助の偏見かもしれない(笑)。
その証拠に(?)、この曲を十八番にしていたのが、ジャック・ティーガーデン(1956)。
彼は実にふてぶてしく歌っている(笑)。
おそらくこれを凌ぐヴァージョンはないだろう。
![]()
(THIS IS TEAGARDEN !/Jack Teagarden)
♪♪♪♪♪♪
本日の一句
「さよならも言わずに去って行った髪」(蚤助)
“AFTER YOU'VE GONE”(邦題「君去りし後」)は、1918年、ヘンリー・クリーマーの詞にターナー・レイトンが曲をつけたとても古い歌である。

クリ―マーとレイトンは、ボードビリアンで歌手兼ピアニストとしてコンビを組んでいて、ミュージカルのスコアも共同で書いている。
他の楽曲では“WAY DOWN YONDER IN NEW ORLEANS”(1922)も有名で、こちらも現在でもサッチモの歌などで時折耳にすることがある。
フレディ・キャノンのポップ・ロック路線の歌もヒットした。
さて、“AFTER YOU'VE GONE”だが、スタンダードのソングブック集などでは、大抵最初か2〜3曲目に登場する。
アルファベット順に曲が並ぶことが多いからだが、この曲より前に出てきそうなのは“AFTER HOURS”とか“(AN) AFFAIR TO REMEMBER”くらいのものだろうか。
ところどころどこかで聞いたようなメロディが顔を出すが、それもそのはず、当時流行していた曲のメロディを引用して即興的に作られた歌だからである。
当時から盗作ではないかとの噂が絶えなかったようだが、まあ、流行した曲の良いとこどりのようなものなので、それがかえって親しみやすく、特にスイング派、ディキシー系ミュージシャンのお気に入りの楽曲となった。
1920年代に人気のあったマリオン・ハリスという白人女性歌手の録音が最も古いものとして知られているが、その後、ブルースの皇后ベッシー・スミスをはじめ、アル・ジョルソン、ソフィー・タッカー、ルイ・アームストロングら多くの歌手や楽団がカヴァーするようになった。
コール・ポーターはこの曲から“ANYTHING GOES”(1934)を作ったと言われているが、なるほど歌い出しの部分はそっくりである。

♪ あなたは去って行った 私を泣かせたまま
あなたは去って行った その事実は間違いない
きっと哀しくなって ブルーな気持ちになる
愛する人がまた恋しくなる
忘れないで あなたが後悔する時が きっと来る
いつか寂しくなって 今の私のように
心がズタズタになって そしてまた私を求めるだろう…
こんな内容だが、実は歌い手によって歌詞が違っていることが多い。
そんなに難しい内容ではないのだが、いろいろな解釈が可能だということからきているようだ。
主人公が、男か女かでまるで違うものになるし、怒って突き放しているのか、悲しんで未練タラタラなのか、それぞれの解釈ができるのだ。
しかし、基本的なところは上記のような内容である。
意地悪く考えると、曲の出来上がりがやっつけ仕事のようなもので、歌詞もどちらかといえば曖昧というような楽曲が、スタンダード・ナンバーの系列に連なるというのは、作者の意図とか才能とかいうものを超えて、歌ったり演奏したアーティスト、またそれを支持した多くの聴衆の力によるものだということになるのかもしれない。
作者コンビの意図は、単純に恋人が離れて出て行こうとするのを引き留めているという歌であろう。
ところが、主人公は恋人にフラれて「きっと寂しくなって私のことが恋しくなるのよ!」なんて、結構自惚れが強い女性のようなイメージがある。
しかも「あなたは悲しみに耐えかねて、私を求めることになるのよ」と来るから意外に図々しい女である(笑)。
男女の別れの歌は演歌と共通する世界ではあるが、このあたりが演歌の世界との決定的な違いのような気がする。
ただ、フラれたのは女性だという保証はどこにもないわけで、やはりこういう思考経路というのは女性であろう…というただの蚤助の偏見かもしれない(笑)。
その証拠に(?)、この曲を十八番にしていたのが、ジャック・ティーガーデン(1956)。
彼は実にふてぶてしく歌っている(笑)。
おそらくこれを凌ぐヴァージョンはないだろう。

(THIS IS TEAGARDEN !/Jack Teagarden)
♪♪♪♪♪♪
本日の一句
「さよならも言わずに去って行った髪」(蚤助)