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#443: サウンド・オブ・サイレンス

ポール・サイモンとアート・ガーファンクルの二人は、1950年代にも一度トムとジェリーというロックン・ロールのデュオ・グループを結成したことがある。
当時はエヴァリー・ブラザーズが彼らのアイドルだったようだ(こちら)。

その後、別々に行動して再び出会ったとき、二人の音楽的嗜好はロックン・ロールからフォーク・ミュージックに移っていた。
再度サイモン&ガーファンクルとしてデュオを組んで音楽活動をし始めた。

サイモンとガーファンクルは、ポップス史上において非常に重要なデュオであったし、優れた楽曲、歌唱をいくつも残している。
中でも『サウンド・オブ・サイレンス』(THE SOUNDS OF SILENCE)は傑作といってよいだろう。

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サイモンの作詞・作曲による63年の作品で、64年3月にリリースされた彼らのデビュー・アルバム『水曜の朝、午前3時』(WEDNESDAY MORNING, 3AM)の中の1曲として収録された。
デュエットとアコースティック・ギターだけの伴奏で歌われた。

だが、このアルバムは全く売れなかった。

翌年の6月、プロデューサーのトム・ウィルソンは、ボブ・ディランの『ライク・ア・ローリング・ストーン』のレコーディングに参加してスタジオから出てきたばかりのマイク・ブルームフィールドらミュージシャンに声をかけ、この曲に彼らの演奏をオーヴァー・ダビングする。
エレクトリック・ギター、12弦ギター、ベース、ドラムスを加え、フォーク・ロック調にアレンジし直したのだった。

これをボストンのラジオ局が放送したところ、折から流行の兆しを見せていたフォーク・ロックへの注目度もあって大好評を博すようになった。
このオーバー・ダブ・ヴァージョンは、じわじわとヒット・チャートを上昇、66年の1月には、デイヴ・クラーク・ファイヴの『オーバー・アンド・オーバー』に替わって、ビルボード誌で全米ナンバー・ワン・ヒットとなった。
蛇足ながら、『サウンド・オブ・サイレンス』の次にナンバー・ワン・ヒットの座についたのはビートルズの『恋を抱きしめよう』(WE CAN WORK IT OUT)だった。

サイモンとガーファンクルはそれぞれ別々に渡欧していたが、サイモンはあきらめてかけていた全米ナンバー・ワンの吉報を滞在先のロンドンで知らされるのである。
サイモンはロンドンで初のソロアルバム『PAUL SIMON SONG BOOK』(66)の録音をしていて、そこでもこの曲を彼自身のギターのみを伴奏にして、やや粗っぽいが力強いヴォーカルで歌っている。
このヴァージョンは、なかなかヒットに恵まれない当時の彼の複雑な心境が表れているようだ。

所属レコード会社のCBSは、早速大ヒットしたこのフォーク・ロック・ヴァージョンを収録したアルバム『SOUNDS OF SILENCE』を発売することにした(66)。

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メロディには英国的な薫りも感じられるし、美しいハーモニーとともに彼らの個性が確立されているのが分かるような仕上がりになっている。
アコースティックとエレクトリック、双方のヴァージョンを聴き比べてみるのも一興である。

67年には映画『卒業』(THE GRADUATE)の挿入歌として使われてからさらに有名になった。
『卒業』はなかなか良くできた映画で、監督のマイク・ニコルズを売り出し、主演したダスティン・ホフマンをスターに押し上げた。
セックスが大きなテーマだが、とても爽やかな印象を残したのは、ニコルズの演出もさることながら、サイモンとガーファンクルの歌声の貢献度が高いようだ。
映画にはほかに『スカボロ・フェア』や『ミセス・ロビンソン』といったこのデュオの代表作が使われている。

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『サウンド・オブ・サイレンス』というタイトルは実に洒落た言い回しだと思う。
「静寂の音」とか「沈黙の音」というのか、日本語にはなかなか置き換えられない語感である。

この歌の「僕」の友は暗闇である。
ハロー・ダークネスと冒頭で呼びかけている。
暗闇に向かって、友よ、また話をしよう、と言う。
幻影がそっと忍び寄って、僕の眠っている間に頭の中に種をまく。
頭の中の幻影は、静寂の中に根をおろしている…

夢の中で僕は一人で石畳を歩いている。
ネオンの光は夜と静寂の音を裂いて、僕の目を射抜いた。
光の中で、大勢の人を僕は見た。
人々は声なき歌を作り、誰も静寂の音をかき乱そうとはしない。

「癌が広がるような静寂を君は知らないんだ」と夢の中の僕が言う。
その言葉は音のない雨のように。静寂の井戸の中にこだまする…

こんな内容である。
抽象的な雰囲気を持った歌詞で、きちんと韻を踏んでいるところなど、形式はオーソドックスなのだが、言葉の使い方、表現の仕方など、新しい歌になっている。

だが、難しい歌詞である。
「僕」の夢の中はサイレント映画のように音のない世界なのだろうか。
「癌が広がるような静寂」(Silence Like A Cancer Grows)などという表現は、それまでの歌の世界には決して無かったであろう。

「ネオンの神」(The Neon God)という言葉も出てくる。
人々は自分たちが作ったネオンの神を崇拝する。
それは光る文字でお告げの言葉を照らし出し、沈黙の音でこうささやく。
「預言者の言葉は地下鉄の壁とアパートの部屋に書かれてある」

ある種の文明批評のような歌である。
しかし社会へのプロテストという激越さは全くなく、幻想的なメロディの中にちょっと恐ろしげでクールな夢の情景が淡々と歌われている。
都会の住人の疎外感をシンボライズしているようなイメージなのだが、この曲の発表当時よりも21世紀の現在の方が、一層切実に迫ってくるのではないかと感じるのは蚤助だけであろうか。

♪♪♪♪♪♪
「SILENCE IS GOLDEN」(沈黙は金)と申します…

そりゃそうでしょう、こういうこともあるんですから。

「しゃべらぬとバカも三年分からない」(蚤助)


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