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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#693: べサメ・ムーチョ

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ラテン音楽の中で最もよく知られている曲ではないだろうか。「Besame Mucho」である。
ラテン・バンドが出てくれば、この曲を演奏しないとおさまらないという時代があったほどの大ポピュラー・ナンバーである。
その昔、冬季オリンピックのアイス・ダンスで演技にこれを使ったペアがいた。
英語で「Kiss Me Much」、「Kiss Me A Lot」、「Kiss Me Again And Again」。「私にたくさんキスをして」。歌の内容は推して知るべしだろう。

メキシコの女性ピアニスト、コンスエロ・ヴェラスケスの作品だが、何と彼女がまだ花も恥じらう15歳のときに書かれた曲である。ヴェラスケス自身の語るところによれば、この曲を発表した当時、彼女はまだキスも未経験であったといい、キスをするということが罪深いもののように思っていたという。それにしてはとても情熱的な歌で、どうやらかなり早熟な少女だったようだ(笑)。

メロディはスぺインの作曲家エンリケ・グラナドスがゴヤの描いた絵画をモチーフに作曲したピアノ組曲「ゴイェスカス」(1912)の第4曲「嘆き、またはマハと夜泣きうぐいす」にインスパイアされたものだそうだ。


なるほど確かに断片的に「Besame Mucho」のメロディが聴こえてくる。

BESAME MUCHO
(Words & Music by Consuelo Velazquez/1941)

Besame, besame mucho
Como si fuera esta noche la ultima vez
Besame, besame mucho
Que tengo miedo perderte, perderte despues…

私にキスして
今夜が最後かもしれないから
たくさんキスをして
あなたを失うのが怖い この後あなたを失うのが怖い…
さらに「あなたを抱きしめたい、あなたの目を見て、私のそばにいるあなたを、多分明日あなたと別れ、遠いところへ行かなければならないから」と続く。

愛することの怖れを歌っているが、「perderte despues」というのは「後であなたを失う」という意味で、これはヴェラスケス15歳の感覚、つまり人生経験の少なさや無邪気さから直截に出てきたフレーズのようだ。現在では、この部分を「Perderte otra vez」と歌うアーティストも多いようだ。「再びあなたを失う」という意味で、オリジナルの歌詞よりも、ずっと経験を積んだ大人の感覚を出そうとしたものだろう。

原語のスペイン語版となれば、何と言ってもかつて日本でも大受けしたトリオ・ロス・パンチョスである。何度もこの曲をレコーディングしているが、彼らはいずれもオリジナルの歌詞「perderte despues」と歌っている。特徴のあるレキント・ギターのイントロが印象的で、3人の美しいハーモニーと各人のソロが交互に奏でられ、今の耳で聴いても新鮮だ。


この曲が発表された当時は、第二次世界大戦中の真っただ中で、アメリカは中立だったラテンアメリカ諸国と親交を深める国策をとっていたため、音楽もラテン・ナンバーが推奨されたところがあり、大ヒットにつながった。出版されて間もなく、サニー・スカイラーの手によって英語詞がつけられた。

BESAME MUCHO (KISS ME MUCH)
(Words by Sunny Skylar/Music by Consuelo Velazquez/1944)

Besame, besame mucho
Each time I cling to your kiss, I hear music devine
Besame, besame mucho
Hold me my darling and say that you'll always be mine

This joy is something new
My arms there holding you
Never knew this thrill before
Whoever thought I’d be holding you close to me
Whispering it's you I adore
I wish you'll hold me dearest one…

キスして、キスして、もっと
君にキスするたび崇高な音楽が聞こえる
キスしてもっと
私を抱きしめて 君はいつまでも私のものだと言って

この喜びは何か新しいもの
君を抱く私の腕は 今までこんな感動を知らなかった
こうして君を抱きしめ 愛していると囁くなんて
誰が考えたことだろうか
抱いてほしい 愛しい人…
スカイラーの歌詞は原語より熱烈な愛の歌になっている。

アマポーラ」のヒット以来、ラテン音楽中心になったジミー・ドーシー楽団(歌はボブ・エバリーとキティ・カレン)の43年録音盤がまたたく間に大人気となり、めでたくミリオンセラーを獲得した。翌年、幻の名歌手アンディ・ラッセルが歌ってこれも大ヒットした。今ではあまり聴けないラッセルの歌は嫌味のない美声で素晴らしい。


ジャズのインストだと、この曲、ジャズ・ファンは何かにつけてアート・ペッパーを持ち出す傾向がある(笑)。
56年の録音で、ペッパーのアルト、ラス・フリーマンのピアノ、ベン・タッカーのベース、ゲイリー・フローマーのドラムスというペッパー・カルテットによるつとに評判の高い演奏だ。


蚤助もこの録音はお気に入りだが、「Besame Mucho」はやはりヴォーカルで聴きたい曲なのだ。

カラオケのキスして抱いてという気軽  蚤助

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