先月末、白人アルト・サックス奏者のフィル・ウッズが亡くなった。享年83歳。だが、彼のことを全く知らない人に、どういうミュージシャンか分かってもらえるように紹介するとしたら、ビリー・ジョエルの大ヒット・ナンバー「素顔のままで」(Just The Way You Are)のバックで熱情的なサックス・ソロを吹いていた人だ、といえば少しは思い出していただけるかもしれない。
グラミー賞を4回受賞したジャズ・ミュージシャンだが、ポップ・ミュージックの世界では、このビリー・ジョエルのほか、スティーリー・ダン、ポール・サイモン、アレサ・フランクリンなどとも共演している。クリアでメロディアスな特徴のある音色、力強いアタック、ウッズ流の装飾的なフレーズ、ほのかな哀感、こうしたものが彼の魅力だったが、ある意味で「素顔のままで」のソロにそれが凝縮されていると言ってもいいかもしれない。アルト吹きで、白人、黒人、洋の東西を問わず、上手さでいったら彼の右に出るものは、おそらくモダン・アルトの祖チャーリー・パーカーを除いていないであろう。
彼はパーカー直系のアルト奏者であった。何しろパーカーの死後、チャン未亡人と結婚し、パーカーの遺児二人の面倒まで見ているのだから、パーカーへの傾倒ぶりは尋常ではない。ただ、師匠の女房と結婚することが、果たして衣鉢を継ぐことになるのかは、正直言って蚤助にはよく分からないのだが…(笑)。とはいえ、アート・ペッパーにしろ、ジャッキー・マクリーンにしろ、リー・コニッツ、ソニー・スティット、あるいはキャノンボール・アダレーなどというアルトの達人たちだって、彼の上手さには一目置かざるを得なかったことは間違いない。あまりにも上手すぎて時にはそれゆえに、スタジオ・ミュージシャン的な使われ方でビッグ・バンドに呼ばれたりした。自身はクサッた時期もあったようだが、ビッグ・バンドの中にいても、ひとりで熱情的に飛び出してくるソロは誰にもかなわなかった。
当時のアメリカの音楽事情がよほど肌に合わなかったのか、68年、彼はヨーロッパに渡ってフランスに居を構えた。そして同年の春、ヨーロッパのミュージシャンとのグループを結成、それがヨーロピアン・リズム・マシーンであった。スイス出身のピアニスト、ジョルジュ・グルンツ、ドラマーのダニエル・ユメール、フランスのベーシスト、アンリ・テキシェという若きスターたちによる黄金のリズム・セクションを得て、ウッズのプレイは、タイトに引き締まってくる。以前のプレイがマイルドな味だったとすれば、シャープな切れ味になったのである。このバンドの代表作は何といっても、デビュー第1作の「Alive And Well In Paris」(邦題は「フィル・ウッズ&ヨーロピアン・リズム・マシーン」)であろう。
同アルバムからウッズ自作のストレートアヘッドな作品「And When We Are Young」(若かりし日)である。友人だったというロバート・ケネディに捧げられた曲で、懐かしい青春時代を追想するような力演だ。彼は、ヨーロッパで再びアドリブに情熱を傾けられるようになった喜びを生き生きと(Alive)そして元気に(Well)演奏している。インタープレイの大切さを改めて教えてくれる作品でもあった。
訃報に接して、調べてみたら我が家に彼のリーダー・アルバムは12枚あった。中から上記の「Alive And Well~」のほか、彼の代表作といえそうなアルバムを紹介しておく。
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左は「Phil Talks With Quill」(57)で、フィル・ウッズとジーン・クイルという2大アルト奏者のグループの代表作で、ロリンズ、ガレスピー、ゲッツ、パーカーにウッズ自身の愛奏曲というラインナップは曲目、演奏といい秀逸である。
中左は「Warm Woods」(57)。ウッズのワン・ホーンで、リラックスした雰囲気が極上のアルバム。蚤助が愛する1枚でもある。
中右は「Musique Du Bois」(74)。「Alive And Well~」の欧州リズム・マシーンに対して、こちらはジャッキー・バイヤード、リチャード・デイヴィス、アラン・ドウソンというニューヨーク・トリオだが、ウッズは彫りの深い演奏を披露し、欧州リズム・マシーンの明るさよりも一段高いテンションを示す。吹けるところまで吹いてやろうという姿勢が感動的だ。
右は「Live From Show Boat」(76)という2枚組。メリーランド州シルバー・スプリングスにあるクラブ、ショウ・ボートでのライヴ盤だが、ウッズはソプラノ・サックスも手掛けるようになっていた。それまでのハード路線から一転、抒情性を濃厚に感じさせるアルバムで、77年のリリース直後から大評判となった傑作である。特に20分を超える「Brazilian Affair」は、「プレリュード~ラヴ・ソング~ウェディング・ダンス~ジョイ」という4つのパートからなる組曲風の大曲。当時のレギュラー・クインテットにパーカション奏者を加えた編成で、ラテン・リズムに乗っためっぽう楽しい演奏を披露している。長いこと廃盤になっていたが、現在では日本盤も出て入手が容易になっているのが嬉しい。
骨肉の争い通夜でゴング鳴る 蚤助
グラミー賞を4回受賞したジャズ・ミュージシャンだが、ポップ・ミュージックの世界では、このビリー・ジョエルのほか、スティーリー・ダン、ポール・サイモン、アレサ・フランクリンなどとも共演している。クリアでメロディアスな特徴のある音色、力強いアタック、ウッズ流の装飾的なフレーズ、ほのかな哀感、こうしたものが彼の魅力だったが、ある意味で「素顔のままで」のソロにそれが凝縮されていると言ってもいいかもしれない。アルト吹きで、白人、黒人、洋の東西を問わず、上手さでいったら彼の右に出るものは、おそらくモダン・アルトの祖チャーリー・パーカーを除いていないであろう。
彼はパーカー直系のアルト奏者であった。何しろパーカーの死後、チャン未亡人と結婚し、パーカーの遺児二人の面倒まで見ているのだから、パーカーへの傾倒ぶりは尋常ではない。ただ、師匠の女房と結婚することが、果たして衣鉢を継ぐことになるのかは、正直言って蚤助にはよく分からないのだが…(笑)。とはいえ、アート・ペッパーにしろ、ジャッキー・マクリーンにしろ、リー・コニッツ、ソニー・スティット、あるいはキャノンボール・アダレーなどというアルトの達人たちだって、彼の上手さには一目置かざるを得なかったことは間違いない。あまりにも上手すぎて時にはそれゆえに、スタジオ・ミュージシャン的な使われ方でビッグ・バンドに呼ばれたりした。自身はクサッた時期もあったようだが、ビッグ・バンドの中にいても、ひとりで熱情的に飛び出してくるソロは誰にもかなわなかった。
当時のアメリカの音楽事情がよほど肌に合わなかったのか、68年、彼はヨーロッパに渡ってフランスに居を構えた。そして同年の春、ヨーロッパのミュージシャンとのグループを結成、それがヨーロピアン・リズム・マシーンであった。スイス出身のピアニスト、ジョルジュ・グルンツ、ドラマーのダニエル・ユメール、フランスのベーシスト、アンリ・テキシェという若きスターたちによる黄金のリズム・セクションを得て、ウッズのプレイは、タイトに引き締まってくる。以前のプレイがマイルドな味だったとすれば、シャープな切れ味になったのである。このバンドの代表作は何といっても、デビュー第1作の「Alive And Well In Paris」(邦題は「フィル・ウッズ&ヨーロピアン・リズム・マシーン」)であろう。
同アルバムからウッズ自作のストレートアヘッドな作品「And When We Are Young」(若かりし日)である。友人だったというロバート・ケネディに捧げられた曲で、懐かしい青春時代を追想するような力演だ。彼は、ヨーロッパで再びアドリブに情熱を傾けられるようになった喜びを生き生きと(Alive)そして元気に(Well)演奏している。インタープレイの大切さを改めて教えてくれる作品でもあった。
訃報に接して、調べてみたら我が家に彼のリーダー・アルバムは12枚あった。中から上記の「Alive And Well~」のほか、彼の代表作といえそうなアルバムを紹介しておく。




左は「Phil Talks With Quill」(57)で、フィル・ウッズとジーン・クイルという2大アルト奏者のグループの代表作で、ロリンズ、ガレスピー、ゲッツ、パーカーにウッズ自身の愛奏曲というラインナップは曲目、演奏といい秀逸である。
中左は「Warm Woods」(57)。ウッズのワン・ホーンで、リラックスした雰囲気が極上のアルバム。蚤助が愛する1枚でもある。
中右は「Musique Du Bois」(74)。「Alive And Well~」の欧州リズム・マシーンに対して、こちらはジャッキー・バイヤード、リチャード・デイヴィス、アラン・ドウソンというニューヨーク・トリオだが、ウッズは彫りの深い演奏を披露し、欧州リズム・マシーンの明るさよりも一段高いテンションを示す。吹けるところまで吹いてやろうという姿勢が感動的だ。
右は「Live From Show Boat」(76)という2枚組。メリーランド州シルバー・スプリングスにあるクラブ、ショウ・ボートでのライヴ盤だが、ウッズはソプラノ・サックスも手掛けるようになっていた。それまでのハード路線から一転、抒情性を濃厚に感じさせるアルバムで、77年のリリース直後から大評判となった傑作である。特に20分を超える「Brazilian Affair」は、「プレリュード~ラヴ・ソング~ウェディング・ダンス~ジョイ」という4つのパートからなる組曲風の大曲。当時のレギュラー・クインテットにパーカション奏者を加えた編成で、ラテン・リズムに乗っためっぽう楽しい演奏を披露している。長いこと廃盤になっていたが、現在では日本盤も出て入手が容易になっているのが嬉しい。
骨肉の争い通夜でゴング鳴る 蚤助