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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#717: 川柳「すきずき」

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 「すきずき」(好き好き)とは人によって好みが違うことである。ことわざに「蓼食う虫も好き好き」という。用例が適切かどうかは議論のあるところだろうが、「あれほどの美人が、あんないいかげんな男に一目ぼれをした挙句に結婚したらしい。蓼食う虫も好き好きだね」などと使う(笑)。辛くて苦い蓼を好んで食べる虫がいるように、人の好みはさまざまだという意味だ。考えてみるとこのことわざ、他人の趣味の悪さを評して使われることが多い。あまりいいニュアンスを含んでいないようだ。でも、それこそ人の好みは異なるのだから、自分の趣味と比べてあれこれと言うことはできないわけで、余計なお世話というべきだろう。

 英語では単純に Tastes differ とでもいうのかと思ったら、辞書には There is no accounting for tates と出ている。account for~ は「明らかにする」とか「説明する」という意味なので「人の好みは説明のしようがない」ということだろう。

 このことわざで「われなべにとじぶた」というのを連想した。どんな人にも釣り合ったつれあいがあるものだというたとえだ。ここから、何においても似通った程度の者同士がよい、という意味にも使われる。「われなべ」は「破れ鍋」で「割れ鍋」とも書く。壊れた鍋のことだ。「とじぶた」は「閉じ蓋」ではなく「綴じ蓋」だそうで、壊れた部分を修理した蓋だ。夫婦を鍋と蓋に例えて、壊れた鍋には修理した蓋くらいが釣り合いがとれるということだ。「江戸いろはかるた」に出てくるという。ただし、謙遜して自分自身のこととして用いるのは構わないが、相手に対して使うと失礼にあたり、ヒンシュクを買うことは必至なので、使用には注意が必要だ(笑)。これも用例、「他人から見たら蚤助って人は頼りないかもしれないけれど、破れ鍋に綴じ蓋というように、私にはあの人が一番なんですよ」と女房が言ったかどうかは不明である(ホンマかいな?)。

 このたとえにも面白い英語の表現があるようだ。 Every Jack has his Jill というやつだ。「どのジャックにも彼のジルがいる」ってか! 「どのタロウ君にもお似合いのハナコさんがいる」というわけだ(笑)。最近では、縁遠い人も多くなって、お似合いの人が見つからず、このたとえも次第にたとえとして現実にそぐわなくなりつつあるのかもしれない。

 ところで、蓼は刺身のつまや薬味として使われるが、アユの塩焼きに添えられることが多いタデ酢は蓼の葉をすりつぶして酢で伸ばしたものである。野生種よりも栽培種の方が辛みが少ないそうだ。蓼の生産は福岡県が日本一だとのこと、これは全く知らなかった。

 で、またまたNHKラジオ、文芸選評「川柳」、2年前の9月の兼題が「すきずき」、なかなか面白い宿題であった。

【平成23年9月 課題「すきずき」 安藤波瑠・選】

好き好きがあって世の中面白い    田島克己
父さんは独りでくさや焼いている    堀 正和
好物の押し売り隣りから届く    大澤いさ子
すきずきを世渡り上手見せません    西東南北
感嘆符君と僕との付け所    吉富 廣
部屋ごとのテレビ泣いてる笑ってる    淀縄たけし
好き好きにさせてやりたい親心    野田清博
好き好きに親を選べぬ子の辛さ    松本守雄
あせってるタデ喰う虫はいませんか    雨森茂喜
ひとつ屋根蓼食う虫が二人住む    荒井正生
町内の噂で俺は蓼にされ    川北英雄
ダイエットするなおまえは今が良い    高原 繁
エアコンの温度でずれる夫婦仲    米山英一
ハイキング好きを好きだけ好きに食べ    門西勝子
品揃え想定外の色も売れ    松井昌子
趣味多彩公民館はフル稼働    坂上淳司
すきずきに国家論じる縄暖簾    藤田勘芳
好き好きと熱弁スルリいなされる    荒尾富士雄
長生きの秘訣酒あり禁酒あり    高木正明
すきずきという結論にたどりつく    伊藤石英

すきずきに扉を開ける子等の夢    曽我豊華
店員はお好みですと素っ気ない    松村洋子
すきずきを聞く耳持たぬ子沢山    前田伸江
あの人のどこがいいのか恋は謎    有田澄子
あの服を着るのはどんな人だろう    塩谷凉子
墓石にも好き好き過去を語らせる    金井矩子
あのイヤなヤツにも妻のいる不思議    伊藤弘子
さまざまな好みにいらぬ御節介    市川正子
好き好きといえど流行りは無視できぬ    田村也子
すきずきも困る意見のまとめ役    金谷照子
傍目にはがらくただけのコレクション    斎藤和子
命懸け何で行きたいエベレスト    西村良道
お似合いと言えない服を客は買い    越澤 孝
蓼の葉はいかがですかとプロポーズ    吉野健司
好き嫌いさらり流して大家族    平山美登里
老眼の視力に合わぬバラエティー    中田克昭
好き好きのおかげ私に妻がいる    関根一雄
お手酌でどうぞビールに酒ワイン    関口カツ子
ファミレスで丸くおさめる三世代    岡本 恵
 蚤助の一句は佳作20句に抜いてもらったこの句だ。「すきずき」というより、むしろ「捨てる神あれば拾う神あり」というところかもしれない。

棄てた村今は都会の人が住む


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