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Channel: ただの蚤助「けやぐの広場」~「けやぐ」とは友だち、仲間、親友という意味あいの津軽ことばです
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#505: ゴムまりの唄?

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1963年のこと、音楽好きの若者が進学した大学で知り合って、ロンデルス(THE RHONDELLS)というバンドを結成した。
メンバーは、ドナルド・ダンネマン(vo,g)、トーマス・ドウズ(vo,g,b)、マーティン・フライド(ds,perc)の3人で、アコースティックを主体にしてクラブやライヴ・ハウスを中心に音楽活動をしていたが、64年、イギリスからビートルズがアメリカの音楽界に進出してきて大旋風を巻き起こし、その影響を受けて彼らも次第にビート・グループへと変貌を遂げていく。

年が明けて、65年、ビートルズのマネージャーのブライアン・エプスタインが経営する芸能プロダクションのアメリカ支社のスタッフが、ニューヨークのクラブで演奏するロンデルスのライヴを聴いた。
彼はロンデルスの演奏を気に入ってエプスタインに有力な新人バンドとしてスカウトしたらどうかと進言した。
エプスタインは大いに興味を示し、彼らのマネージメントをすることを承諾した。
こうして、ロンデルスはエプスタインがアメリカで手掛けた最初のグループとなるのである。


彼らのデビューは幸運に恵まれていた。

エプスタインとマネジメント契約を交わすと、サイモン&ガーファンクルのツアー・メンバーとして採用され、彼らと親交を深めることになったのだ。

他のアーティストのために作品を提供したことのないポール・サイモンであったが、ポールがブルース・ウッドリー(シーカーズのメンバー)と初めて共作した曲を、ロンデルスにプレゼントする。
この曲はサイモン&ガーファンクルとしてコンサートで披露することはあったが、スタジオ録音する予定はなかったのだ。
曲のタイトルは“RED RUBBER BALL”と題されていた。

ポール・サイモンから曲を提供された効果か、ロンデルスはサイモン&ガーファンクルの所属する大手レコード会社CBSと契約することができ、バンド名をザ・サークル(THE CYRKLE)と改めるのである。
一風変わったバンド名で、かつてはジョン・レノンの命名という説が流布されていたが、実際にはエプスタインの指示によるものだという。

前稿の『男が女を愛するとき』と同じく1966年にリリースされたザ・サークルの“RED RUBBER BALL”はランキングを急上昇し、夏には全米2位の大ヒットとなる。

参考までに、当時のビルボードのトップテンを見てみよう(1966年7月9日付)。

  1. PAPERBACK WRITER / The Beatles
  2. RED RUBBER BALL / The Cyrkle
  3. STRANGERS IN THE NIGHT / Frank Sinatra
  4. HANKY PANKY / Tommy James & The Shondells
  5. YOU DON'T HAVE TO SAY YOU LOVE ME / Dusty Springfield
  6. WILD THING / The Troggs
  7. COOL JERK / The Captols
  8. LITTLE GIRL / Syndicate Of Sound
  9. PAINT IT BLACK / The Rolling Stones
  10. ALONG COMES MARY / The Association

1位がビートルズの『ペイパーバック・ライター』、3位にシナトラの『夜のストレンジャー』、4位にトミー・ジェームズ&ションデルズ『ハンキー・パンキー』、5位にダスティ・スプリングフィールド『この胸のときめきを』、6位にトロッグス『恋はワイルド・シング』、9位にローリング・ストーンズ『黒くぬれ』、と懐かしいナンバーが並んでいる。

エプスタインのマネージメント、全米2位のヒット曲ということで、このランキングが発表された翌月の8月には、ビートルズ最後の全米ツアーに同行し、前座とはいえ同じステージに立つ経験をするのである。

♪ ♪
私は、長いこと、タイトルにある“RUBBER BALL”を「ゴムまり」だとばかり思っていた。
1961年頃に流行った曲に、ボビー・ヴィーが「ゴムまりが弾むように、ボクの心は君にところに向っていく…」と歌う“RUBBER BALL”というのがあり、それが文字通り「ゴムまり」だったということもある。
だが“RED RUBBER BALL”の歌の内容をよく吟味していくと、どうやら「ゴムまり」というよりも「風船」と理解した方がよりポエティックになるのではなかろうか。

歌はこんな内容である。

  ♪ 僕は思いもしなかった 君にさよならを言われるとは
    君のことは教訓さ その教えは身に沁みたよ
    今なら分かるよ 海を彩る美しいヒトデは 君だけじゃないってことが
    君の名を二度と耳にすることがなくても その思いは変わらない
    僕はもう大丈夫 最悪のときは過ぎたのさ
    夜明けの太陽は 「赤い風船」のように 輝いて見える…

軽快で弾むような明るいリズムとメロディなのだが、それとは裏腹に、振り回された彼女への決別と皮肉が歌詞に込められている。
別れの歌というのは、このようにさらりと軽く流したほうが、かえって未練がましくなくていいのかもしれない…と思うが、これは強がりかも(笑)。
マネジメントがブライアン・エプスタインということもあるかもしれないが、この歌、どこかデビューした頃のビートルズを感じてしまうのは私だけであろうか。

後年、ニール・ダイアモンド、作者の一人であるポール・サイモン自身もカヴァー・レコードを発表している。

♪ ♪ ♪
“RED RUBBER BALL”の冒頭の歌詞は“I Should Have Known You Bid Me Farewell”である。
「Should Have + 過去分詞」は「〜すべきだったのに(実際はしなかった」という意味だと英文法で習ったはずで、直訳の「〜と知っておくべきだった」とすべきだが、これを「思いもしなかった」と訳してみたわけである。

なお、ビートルズの“I SHOULD HAVE KNOWN BETTER”(邦題「恋する二人」)は映画『A HARD DAY'S NIGHT』の挿入歌だが、これも「Should Have + 過去分詞」形なので、「もっとよく知っておくべきだった(実際は知らなかった)」という意味となる。

このビートルズ・ナンバーのタイトルにこじつけるわけではないが、英詞の訳に挑戦していて「もっと英語を勉強しておくべきだった(実際はしなかった)」と思うことが多々あると、ここに告白しておこう(笑)。

奔放にボール弾んで何処へやら(蚤助)
こちらのラバー・ボールは「ゴムまり」…


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