ギター奏者としてのケニー・バレル(1931‐)の魅力を問われたら、多くの人は「趣味の良さ」と答えるだろう。
これはいささか抽象的な言い方で、要は、泥臭さがなく、繊細で洗練されたテクニックを持ち、それがごく自然な形でプレイに滲み出てくる、ということである。
よく言われることだが、彼には駄作がない。
仮に失敗作があったとしても、そのアルバムにおける彼のギター・ソロはすべて見事なものばかりである。
実際、1956年の初リーダー作<INTRODUCING KENNY BURRELL>を発表して以降、どのアルバムにおいても常に第一級の出来栄えを示していて、甲乙つけ難い作品ばかりである。
若いころの演奏を聴くと、楽器やアンプの関係もあるだろうが、やや生硬だったギターの音色が時の経過とともにまろやかさが加わって、彼の持ち味であるブルース・フィーリングにしっとりと馴染むようになった。
まるで上等なウイスキーが樽の中で、時間をかけてじっくり熟成していくような感じである。
若々しさと瑞々しさにあふれたプレイが、一歩一歩と次第に貫禄をつけて行って、やがて「いぶし銀」と形容されるような独自の境地に達するのである。
「いぶし銀」のギターといえば、以前、ジム・ホールの稿でも使った覚えがある。
二人はどちらも同年代で、ほぼ独学でギターを修得したミュージシャンであり、端正なプレイぶりなど似通ったところがあるが、バレルの方は黒人プレイヤーだけにブルース・フィーリングがずっと濃厚である。
♪
彼の音楽性、芸術性が多面的に発揮された<GUITAR FORMS>(邦題:ケニー・バレルの全貌)が、その代表作とされるのも、彼のギターの最高のプレイが収録されているからであり、このアルバムこそ「全貌」という邦題にふさわしい一枚でもある。
バレルの全貌とは何か。
ブルース感覚に根ざしたシングル・トーンがひとつひとつ磨き上げられており、適度のリラクゼーションを持ち、しかも感動的である、ということに他ならない。
[A] 1. Downstairs
2. Lotus Land
3. Terrace Theme
4. Excerpt From Prelude No.2 (George Gershwin)
[B] 1. Moon And Sand
2. Loie
3. Greensleeves
4. Last Night When We Were Young
5. Breadwinner
1964年から65年にかけてのバレル30代前半の録音で、名アレンジャー、ギル・エヴァンスの墨絵のようなオーケストラ・スコアがこのアルバムの価値をより高めている。
エレクトリック、スパニッシュ、二本のギターを駆使するバレルの高い音楽性と、サポートするエヴァンスの絶妙なオーケストレーションが混然一体となっている。
トラディショナル・ブルース、クラシック、フラメンコ、モダン・ブルース、ボサノヴァ、フォークソング、スタンダード、モダンジャズといったさまざまなスタイルの演奏だが、バレルの繰り出す抑制の効いたフレーズとオーケストラが交錯する美しさは、聴く者の耳にまとわりついて離れない。
エヴァンスのアレンジャーとしての偉大さを示すという点で、エヴァンスの代表作のひとつに加えてもよいかもしれない。
さらに、4曲はよくスウィングするコンボの演奏、1曲はソロ・ギターにしてあるなど、多彩なアプローチが試みられており、バレルのあらゆる良質な面がきらびやかに披露された珠玉編でもある。
60年代に入ってから一躍頭角をあらわし、人気ギタリストに躍り出たウエス・モンゴメリーの後塵を拝した感があったケニー・バレルだが、これは異色の大傑作となった。
♪ ♪
東京の桜は満開になってからしばらく寒い日が続いたこともあって、まだまだ絢爛豪華に咲き誇っている。
これから桜前線はどんどん北上していく。
震災被災地では、大切な思い出になるはずの物や、宝物のようにしていた物が、今では一様に「瓦礫」と呼ばれるようになった。
それは本来ゴミ扱いされるものではなかったはずで、それゆえ、深く傷つくことになった被災地の人も多いだろう。
復興はまだまだ遠い先のようである。
せめて、被災地の人々の心が、桜の開花で少しでも慰められるように切に願っている。
桜色日本列島駆け上がる (蚤助)
これはいささか抽象的な言い方で、要は、泥臭さがなく、繊細で洗練されたテクニックを持ち、それがごく自然な形でプレイに滲み出てくる、ということである。
よく言われることだが、彼には駄作がない。
仮に失敗作があったとしても、そのアルバムにおける彼のギター・ソロはすべて見事なものばかりである。
実際、1956年の初リーダー作<INTRODUCING KENNY BURRELL>を発表して以降、どのアルバムにおいても常に第一級の出来栄えを示していて、甲乙つけ難い作品ばかりである。
若いころの演奏を聴くと、楽器やアンプの関係もあるだろうが、やや生硬だったギターの音色が時の経過とともにまろやかさが加わって、彼の持ち味であるブルース・フィーリングにしっとりと馴染むようになった。
まるで上等なウイスキーが樽の中で、時間をかけてじっくり熟成していくような感じである。
若々しさと瑞々しさにあふれたプレイが、一歩一歩と次第に貫禄をつけて行って、やがて「いぶし銀」と形容されるような独自の境地に達するのである。
「いぶし銀」のギターといえば、以前、ジム・ホールの稿でも使った覚えがある。
二人はどちらも同年代で、ほぼ独学でギターを修得したミュージシャンであり、端正なプレイぶりなど似通ったところがあるが、バレルの方は黒人プレイヤーだけにブルース・フィーリングがずっと濃厚である。
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彼の音楽性、芸術性が多面的に発揮された<GUITAR FORMS>(邦題:ケニー・バレルの全貌)が、その代表作とされるのも、彼のギターの最高のプレイが収録されているからであり、このアルバムこそ「全貌」という邦題にふさわしい一枚でもある。
バレルの全貌とは何か。
ブルース感覚に根ざしたシングル・トーンがひとつひとつ磨き上げられており、適度のリラクゼーションを持ち、しかも感動的である、ということに他ならない。
[A] 1. Downstairs
2. Lotus Land
3. Terrace Theme
4. Excerpt From Prelude No.2 (George Gershwin)
[B] 1. Moon And Sand
2. Loie
3. Greensleeves
4. Last Night When We Were Young
5. Breadwinner
1964年から65年にかけてのバレル30代前半の録音で、名アレンジャー、ギル・エヴァンスの墨絵のようなオーケストラ・スコアがこのアルバムの価値をより高めている。
エレクトリック、スパニッシュ、二本のギターを駆使するバレルの高い音楽性と、サポートするエヴァンスの絶妙なオーケストレーションが混然一体となっている。
トラディショナル・ブルース、クラシック、フラメンコ、モダン・ブルース、ボサノヴァ、フォークソング、スタンダード、モダンジャズといったさまざまなスタイルの演奏だが、バレルの繰り出す抑制の効いたフレーズとオーケストラが交錯する美しさは、聴く者の耳にまとわりついて離れない。
エヴァンスのアレンジャーとしての偉大さを示すという点で、エヴァンスの代表作のひとつに加えてもよいかもしれない。
さらに、4曲はよくスウィングするコンボの演奏、1曲はソロ・ギターにしてあるなど、多彩なアプローチが試みられており、バレルのあらゆる良質な面がきらびやかに披露された珠玉編でもある。
60年代に入ってから一躍頭角をあらわし、人気ギタリストに躍り出たウエス・モンゴメリーの後塵を拝した感があったケニー・バレルだが、これは異色の大傑作となった。
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東京の桜は満開になってからしばらく寒い日が続いたこともあって、まだまだ絢爛豪華に咲き誇っている。
これから桜前線はどんどん北上していく。
震災被災地では、大切な思い出になるはずの物や、宝物のようにしていた物が、今では一様に「瓦礫」と呼ばれるようになった。
それは本来ゴミ扱いされるものではなかったはずで、それゆえ、深く傷つくことになった被災地の人も多いだろう。
復興はまだまだ遠い先のようである。
せめて、被災地の人々の心が、桜の開花で少しでも慰められるように切に願っている。
桜色日本列島駆け上がる (蚤助)